第3話

翌朝、ジエンは燻製の作り方や森での食料の集め方を二人に教えてくれた。

作った猪肉の燻製は土産として持たせてくれた。


「何から何までありがとうございました」


「気にすんじゃねえ。野垂れ死なれても困るからな。一番近い村まではここから半日くらい歩けば着く。日が沈むまでには森を抜けられるはずだ」


ぺこぺこと頭を下げるカミルに、照れ臭いのだろうか、ジエンは頭をかき視線を逸らした。心なしか鷲鼻の先が色づいていた。


服の裾を引かれてそちらを見ると、メルがジエンを見上げていた。


「ジエン、ありがとう。

あなたに森の加護がありますように」


不意を突かれたような表情を一瞬浮かべ、ジエンはそれからにかっと笑いメルの頭を乱雑に撫でた。



まもなく二人は村の方角へ歩いて行った。その後ろ姿を眩しそうに見つめていた猟師は、やがてその姿が見えなくなると踵を返していった。





「珍しいね、君があんなことを言うだなんて」


青年は隣を歩く少女におかしそうに問いかけた。少女は小さくうなずいて答えた。


「ジエンは、森を、自然を愛している。

あんな人間がまだいたのね」


その口元は綻んでいた。

カミルはそうだね、と頷いて言った。


「彼だけじゃない。自然を愛してる人はたくさんいる。誰もが欲望のままに生きているわけではないんだ。自然と寄り添って生きている人だって少なくないんだよ。


…人間もまだまだ捨てたものじゃないだろう?」


にやりと笑った連れを見て、メルは頷いた。

たしかにそうなのかもしれない。

彼の言ったように、人間をもう一度だけ信じてみたい。

そう願い、メルは大きな一歩を踏み出した。

風にたなびく銀の髪が、朝日を浴びてきらきらと光の粒を振りまいていた。

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