第7話 プレゼント
『え…?』
谷坂さん的には予想外の回答だったのか、驚きと戸惑いを隠しきれないような顔で俺の顔を覗き込んでいた。谷坂さん以上に、俺自身が戸惑っているわけなのだが…
俺『不思議そうな顔してどうしたの?』
谷坂さん『いや、大竹くんなら彼氏と話し合ってみたら?とか言うのかなーって思ってたから意外で、びっくりしちゃった』
彼女はなんで俺の思っていたことがわかるんだろう…なんて思いながらも、話を続ける。
俺『だって今日谷坂さん誕生日だよね?幸せな日だよね?なのに、そんな日に辛い思いさせる彼氏なら別れればいいじゃんって思っちゃったから』
谷坂さん『…なんかありがとう、なんかちょっとだけスッキリした笑』
俺には谷坂さんが向けてきた作り笑いに、作り笑いで答える以外の術を持っていなかった。
今までだったら、彼氏がいる人にこんなアプローチをかけることも、詳しい話も聞かずに別れを進めることも、女の子にこんな顔をさせる彼氏に苛立つこともなかった。こんな全部の初めての気持ちに、改めて俺は谷坂さんが好きなんだと気付かされる。
それから夜遅くまで話を聞いた。谷坂さんの彼氏について、彼氏との最近の状況、谷坂さんがどんな思いでいるのか、とか。
谷坂さんが喜怒哀楽を交えて話す彼氏の話を聞くたびに、俺の精神はちょっとづつ削られていったが最後まで話を聞くことはできた。
谷坂さん『あー、もうこんな時間かあ!遅くまで引き止めちゃった、ごめんね!話聞いてくれて嬉しかった!』
俺『話ならいつでも聞くからなんかあったらいつでもどうぞ。遅くなっちゃったし帰ろっか!笑』
谷坂さんを家の前まで送り届け、
谷坂さん『今日は本当にありがとうね!話ししたらスッキリしました。大竹くんのおかげです!』
俺『いやいや、何にも大したことしてないから笑、それじゃまた明日!』
谷坂さん『うん!また明日!』『大竹くんのおかげで……………………、ありがとう』
俺『ん?なんか言った??』
谷坂さん『いや、なんでもない、聞こえてないんならそれでいい!おやすみ!』
多分まだ何かあったんだろうが深く聞くこともせずに、自宅の方角へと向きを変え自転車を漕ぎ始める。谷坂さんにあげるはずのプレゼントをカバンに詰め込んだまま。
準備したプレゼントがカバンの中にあることはわかっていたし、帰り道や家の前で渡せる機会はいくらでもあった。
それでも渡さなかったのは、谷坂さんに少しイラッとしたからだと思う。俺に彼氏の相談をしてきた彼女の無神経さに対して無性に腹が立ったんだと思う。
無論、俺が彼女に好意を寄せていることを伝えたことがあるわけではないから、彼女は俺の気持ちなんて知らない。彼女は悪くない。そう、ただの八つ当たりだ。
今日1日渡せなかったプレゼントは、渡さなかったプレゼントに変わっていた。
この恋に僕が名前をつけるならそれは“ありがとう” 大竹宏彰 @waisu136
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。この恋に僕が名前をつけるならそれは“ありがとう”の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます