第6話 想いと言葉

誕生日も終わり、高校生活2回目の甲子園出場のチャンスも終わり、夜が少し肌寒く感じる11月。谷坂さんとの恋もこのままなにもなく、冬眠してしまうんじゃないかと感じる秋の終わり。2人で早起きして向かった朝の教室で…


俺『おはよー!今日も寒いねー』

谷坂さん『おはよ!寒いねー、風邪ひいてない?大丈夫??』

俺『全然大丈夫だよー!それより、今まで聞いてなかったー、谷坂さん誕生日いつ??』

谷坂さん『確かに聞かれてなかったねー!私誕生日明日だよ!!』

ん?…今なんて………?


その日は野球の自主練習も早めに切り上げ、駅前の雑貨屋へ向かう。凍えるような風が、今日は一段と強く感じるのは気のせいだろうか。


今まで、友達や彼女に誕生日プレゼントを買うことはあったけど、5分もあれば買い物は終わっていたと思う。…この日は何にするか1時間以上迷ったけれど。


彼氏がいるんだし、もしかしたら受け取って貰えないかもしれない、けど受け取って貰えるなら一生懸命悩んだ物を渡したい…そんな複雑な心境が、普段は来ない雑貨屋に1時間も滞在した理由なのかもしれない。


〜翌日〜

この日は、谷坂さんが朝練があるとのことでせっかく買ったプレゼントは朝一番には渡せず、いつ渡そうかな?と考えていた。

『どうしよう?いつ渡そう?』


……………………………


キーンコーンカーンコーン


気付けば、その日1日が終わってしまった。

野球部のしきたりでホームルームが終わったら着替えて、走ってグラウンドに向かわなければならない。これがウチの野球部内に伝わる鉄の掟、破ることは許されない。


谷坂さんがしてくれたように掃除の時間、下駄箱に入れることも出来たはずだか、どうやって手渡ししようか考えていた俺はそこまで頭が回らなかった。

結局、何も渡せないまま走ってグラウンドへ向かう。1ヶ月前に入っていたような、綺麗な小包をカバンに忍ばせたまま…。


〜練習後〜

谷坂さんにプレゼントを渡せなかったことを後悔しつつも、もう無理だろうなーと諦めていた、21時にようやく練習が終わった。


宮井『おー、お疲れさーん!今日何の日か知ってるかー?』

俺『いや、知らん。ただの月末?』

宮井『俺の誕生日だよ!俺の!』

俺『へー、初めて知ったわ!おめでとう』

宮井『俺、昨日も言ったよ……』


仲のいい宮井と、自分の好きな人が同じ誕生日、なんかこんな縁もあるんだなぁ、とぼんやり考えながら携帯電話を開く。

ウチの野球部では新チーム結成後、一年生はグラウンドにある部室へ携帯を持ち込むことが許可される。もちろん校内には持ち込めないが、携帯を持ってくることさえ許されなかった頃とは雲泥の差だ。


携帯を開くと谷坂さんからメールがあった。

『今日は部活終わってから学校で待ってます、野球終わったら連絡してね』


メールが届いていたのは19時すぎ。多分もう帰ってしまっただろうと思いながらも、急いで着替えて校門へ向かう。


校門で人影を探すが見当たらない、さすがに帰ったよな、と肩を落としながら部室へ向かう。

??『あー、寒いなあ、もぉ…』


ん?声がする方へ歩みを進めると、そこには鼻を真っ赤にした谷坂さんが座っていた。


谷坂さん『わー!やっと終わったんだ!お疲れ様でした!』

俺『お疲れ様じゃないよー!!待たせてごめん!絶対寒かったよね?ごめん!!』

谷坂さん『いやー、私が好きで待ってただけだし、今日大竹君挙動不審だったしなんかあったかなって笑』


多分、彼女は俺がプレゼントを用意していることもお見通しなのかな?と思いながらも、寒そうにしている谷坂さんを見て『帰ろっか!』としか声をかけることしか出来なかった。


『今日はまだ帰りたくない、話聞いて』


『あー、やっぱり誕生日プレゼントのことかー!もちろん準備してますよー』なんて短絡的な心境で彼女の方を見ると話の内容はそのことでないことくらい鈍感な俺でも気づいた。


〜公園〜

いつもは見たことのない、暗い顔を覗き込むことも出来ずただベンチに2人で座る。俺が話し出した方がいいのか、待った方がいいのかなんてことを考えているうちに彼女が口を開く。




『私、今付き合っている彼氏と上手くいってないの。会ったりも出来ないし彼氏には他にも彼女がいるみたい…、別れようか悩んでる、でも好きなの』




彼女から発せられた、この言葉に様々な感情が頭の中を巡る。


『彼氏がどんな人か俺にはわからないけど、ちゃんと話し合ってみるべきだよ、もしかしたら勘違いかもしれないし。好きならなおのこと、しっかり彼氏と話ししてみなきゃ』


確かにそう伝えようと思ったし、そう言ったつもりでいた。


けど口から出た言葉は


『じゃあ別れたら?』だった。











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