第5話 ハピバ

〜帰り道〜

谷坂さんの家は学校から自転車で30分くらいの場所にある。途中自販機で暖かい飲み物を買って、2人で公園に自転車を止めた。


俺『絶対断られると思ってたわー』

谷坂さん『いやいや、私の方こそ絶対こないと思ってたよー!家反対なのに大丈夫だった?野球も忙しそうだし…』

俺『全然大丈夫ー!もうちょっとだけ話していこっか!』

谷坂さん『それはもう、喜んでだよ!』


いつもメールで連絡取ってるのに、不思議と話題は尽きなくて、聞きたいことが山のように出て来て、この時間が一生続いたらいいのになあ…と思いながらも、再び帰路に着いた。女の子と話すのがこんなにも緊張するんだと知ったのもこの時が初めてだった。


俺『今日はありがとね!』

谷坂さん『いや、いや、こっちこそありがとう!気をつけて帰ってね!』

俺『また明日!』


この、また明日!が明日会おうね。ではなく、明日もできたら送りたいな!の意味で言ったのは多分伝わっていないだろうと思いながらも、幸せを噛み締めて次は自分の帰路に着いた。谷坂さんの家から自分の家までは自転車で約1時間かかる。けれど、その日は1時間がいつもより短く感じられた。


そこからは学校でも、ほんの少し声をかけたりかけられたりした気がする。もちろん、他の人がいる前で話すことはなかったがお互い1人の時に少し話しもした。もちろん、学校で2人になれる時なんて少ない。だから2人で早起きして、誰もいない教室でたわいのない話をする…。


野球が忙しく、家に送ることはなくなったがそれでも毎日連絡は取り合った。この時、谷坂さんに彼氏がいることは恐らく頭になかったのだろう。


〜ハロウィン〜

学校の生徒がやけにそわそわする二大行事がバレンタインとハロウィンだった。男子って女子にお菓子もらえたらなんでもいいんだなーと思いながらも俺もその日はそわそわしていた。多分、他の誰よりも。


10月31日は何の日?と聞かれれば、普通はハロウィンだと答えるだろう。そう、俺と親しい人以外は。何を隠そう、ハロウィンは俺の誕生日でもあった。


朝から聞こえる、『大竹誕生日おめでとうー!』の声。振り向かなくてもわかる、この太い声は野球部のやつらか。と。

一通りおめでとうとありがとうのやり取りを野球部のやつらと交わし、教室へ入る。

男から貰うおめでとうも嬉しいが、その日ばかりは谷坂さんからおめでとうを直接言われたくって、朝からそわそわする落ち着かない日常。だけれども何だかんだで何もないまま時間は過ぎ、掃除の時間。


『うわー、結局谷坂さんからはおめでとうはなしかあ…メールで言われるかなあ?』と思っていると、先生に追加で外掃除をやるように言われ、何故か俺だけ遅くなるはめに…。誕生日なのについてねーなーと思いながら、掃除を終え下駄箱に戻ると、そこには小さな小包が入っていた。


『大竹君、お誕生日おめでとう! 谷坂』


のメッセージカードと共に。


宮井『あれ?お前ぬいぐるみなんてカバンに付けてたっけ?初めて見たわ』

俺『あー、みんなのカバンと間違わないようになんかつけよっかなって!』

宮井『ふーん?にしてはでけえな笑』

俺『気に入ってんだ、ほっとけ笑』


野球部の中で最も仲のいい宮井とこんなやりとりをしながら、自分のバッグに付いているぬいぐるみを見て1人、幸せを噛み締める。

この時は、谷坂さんに彼氏がいることが頭にハッキリとあって『谷坂さんに貰った』なんて言ったら迷惑かけちゃうかな?と思い、プレゼントとして貰ったことを伏せた。


〜帰宅〜

野球の練習でヘトヘトになりながらも、谷坂さんへの連絡だけが癒しの時間。晩御飯を食べてすぐにメールを打つ。


俺『帰りましたー!今日は誕生日プレゼントありがとう!野球のバッグにつけたよー!』

谷坂さん『遅くまでお疲れ様!本当は直接渡したかったんだけど…タイミングがなかなかなくて…』

俺『いやいや、本当ありがとね!めっちゃ大切にしますー!!!』

谷坂さん『大竹君、ホームルーム終わるとダッシュで野球行っちゃうから掃除の時しかないー!と思って慌てて入れに行ったんだよ』


プレゼントを貰ったこと、お誕生日おめでとうのカードがあったこと、全部全部嬉しかったけれど、なによりもその日に俺にプレゼントを渡そうとしてくれた谷坂さんの気持ちだけでお腹いっぱいになった。


気付けば、谷坂さんを見つけて半年が経っていた。

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