第5話 「これからの活動のために」

 そうしているうちにお昼となり、親御さんたちが迎えにやってくる時間が近付いてきた。

 

 「春輝さん、さっきから何を書いているんですかっ?」

 「ん、君たちのお父さんお母さんにこれからここでいる間どういう活動をするのかとか安全面とか色々まとめておいて説明できると理解してもらえるかなって」

 

 今までのんびりとしていたが、正直男子高校生に可愛い自分の娘を数時間とはいえ預かると聞いたらあんまりいい気がしないような気がする。

 そのあたりおじいちゃんちゃんと話しているとは思えない。いざ迎えに来てさっきまで面倒を見ていたのがこんなやつだったなんて!ってなる可能性や今後安心してこの三人を預けてもらうためにも分かりやすく大事な要点はまとめて確認できるようにするべきだろう。


 「確かに春輝を見たら信用しなさそうだけど、心配しなくても何か言われたら私たちでフォローするけど?」

 「うむ、実体験の意見は強いぞ?」

 「まぁ、自分でも出来ることはやるよ。信用問題をみんなに丸投げとはいかないし」


 正直なところ、小学生の言葉など大人から見ればいくら自分の子供とはいえ信用できるものではないだろう。良いように騙されていると考えるかもしれないし、やはり自分でそれなりに信頼を勝ち取るしかない。

 しかし、そんなことを言えば彼女たちを不機嫌にさせてしまうので胸の内の隠しておきながらプリントに箇条書きで要点をまとめる。

 先ほどの話にも出たお菓子代についてや、安全性から考える遊び方について。そして何よりも勉強について。

 こればかりは間違いなく先生よりはクオリティが落ちてしまうことが目に見えている。ここを一番丁寧に説明して理解を得るしかない。

 こうして今日一日振り返りながらまとめるだけで各それぞれ説明が必要なところが山積みである。


 「よし、出来た。今書けることはこんなものだな。ちょっと事務室のコピー機借りてコピーしてくる」

 「はいっ!」

 「はいはい」

 「いてらぁー」

 

 一度部屋を出て二木さんにコピー機を借りさせてもらってコピーした。

 父親から何度も言われたこと。何か理解してもらいたかったり、協力や支援が欲しい時はちゃんと要点をまとめて計画性と現実味のある内容であるかどうかをきっちりと伝えられるかである。

 

 「ここに迎えは来てもらえるようにはなっているの?」

 「はいっ、もうしばらくするとここに到着するって今連絡がありました!」

 

 鈴がスマホを見ながらそう元気よく言う。そうか、その年でもう当たり前のようにスマホを扱うんだな……。

 俺の時代なんてカパカパケータイ持っているだけでちょっとイキッたり出来てたのにな。

 

 「あ、到着したみたいですっ!」

 「来たか……」

 「何よ、その反応は」

 

 奈々には冷めた反応でそう言われるが、俺からすればかなり緊張した時間である。俺を見た時にどんな表情をされるのだろうか……。

 コンコンとノックがされると、三人の女性が部屋に入ってきた。


 「あら、とても若い人が面倒を見ていたのね」

 「こんにちは……」

 「お母さん! 三人できたんだね!」

 「ええ、近くで会ってね。そのまま来たわ」 

 「今日からここに居る春輝が私たちの面倒を見てくれることになったのよ!」

 「春輝さんって言うの?」

 「ふむ、とっても優しい」

 

 先ほど奈々が言ったように三人がこぞってフォローを入れてくれている。しかし、三人のお母さん方の表情はあまりいいとは言えない。当たり前だけど。

 

 「私、高梨高校一年生の佐藤春輝と申します」

 「た、高梨高校……!?」

 

 あ、一気に表情が変わった。実は俺はこの地域でダントツで偏差値の高い進学校に通っている。さすがのネームブランド。

 

 「祖父が今回の件を受け持ったのですが、うちは剣道の道場を持っていてこの時間はいつも稽古をしており、そちらの方の指導に祖父は回っておりますので代わりに私が受け持つことになりました。若造でご不安になられるでしょうが、今回気になられるであろう点についてどう対応するかここにまとめさせていただきましたのでご覧ください」

 「「「あ、はい……」」」


 こうして三人のお母さん方に伝えるべき点、どうするのかをしっかりと要点ごとに話した。

 お菓子代の件や遊びの件については書いていた内容にもっともだとすぐに理解を示してもらえた。

 そして最後の問題として——。

 

 「勉学についてなんですけれども……。こればかりは教員の方が教えるのとでは見劣りするかもしれません。そこだけはご了承をいただければ……」

 「何を言っているんですか。そんなこと気にしないでください」

 「そうですよ」

 「大丈夫。気にしなくていいですよ」

 「え……」

 

 帰ってきたのは予想外の反応である。三人とも学校以外の教材をやっているくらいには勉強熱心な家庭なはずなのに。


 「こういう事態になる時点でどうなっても教員以外の方が面倒を見ることになっていたのですから。それどころかあの高梨高校の生徒さんが教えてくれるというはこちらから言えばとてもありがたいことですよ」

 「うんっ! 春輝さんとても分かりやすいし優しく教えてくれる!」

 「先生よりも質問とか分からないところ聞きやすいしね……」

 「うむ、しっかり具体的に褒めてくれて嬉しい」

 「と、この子たちからも高評価なのでこれからもその調子でよろしくお願いします」

 「は、はい!」


 こうして三人の親御さん全員からこれから俺が面倒を見ることをちゃんと正式に承諾していただいた。


 「春輝さん、また来週会いましょう!」

 「春輝ー、さみしくて泣くんじゃないわよ」

 「しーゆーあげいん」

 「あいよ、また来週な!」


 来週は三人とどんなことをして遊んだりしようか。

 退屈な俺の生活の中に少し考える楽しみが出来た。

 

 

 

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