第4話 「会話」

 お菓子を食べるのも落ち着いたところで俺はコーヒーを飲みながら三人に話を振ってみた。


 「この後は自由にみんな遊んでいる感じなのか?」

 「そうですねっ。基本的には三人で今日は何して遊ぼうとか決めてから遊んだりしていましたっ!」

 「ちなみに何して遊ぶわけ?」

 「基本的には体育館や外で体を動かして遊んだり、雨だったりそういう気分じゃないときは図書室で本を読んだりしているわ」

 「うむ。インアウトバランスよく」

 「なるほどな……」


 小学生らしく元気に遊ぶこともあれば、しっかりと本を読んでいるときもあるようだ。しかしながらその話を聞いて俺は悩みこんだ。

 運動して遊ぶにしても、本を読むにしてもその適応する場所が必要なのである。


 「出来れば同じような環境にしてあげたいんだけどな……。厳しいなこれは」


 本を読むということならまだしも、外で遊ぶということは確実に無理である。近くの公園や広場に連れていけばいいのではと考える人がいるかもしれないが、この三人の安全を頼りない高校生一人でとても保障出来かねる。

 まずケガをしたときなどの手当てが出来る環境がない。学校には保健室があり、手当てする道具も適切な手当てが出来る人が存在するが、ここには何もない。

 そして学校の運動場や体育館のように学校内の施設で安全性がある場所で彼女たちを遊ばせられない事だ。学校の敷地には不審者はそう簡単に侵入できないようになっているが、広場や公園ならいつでもこの三人に接触できる。こんなにも可愛らしい三人のことだ、そういうことがあってもおかしくないのでこの建物から出すというわけにはいかない。

 

 「無理に考えなくてもいいわ。トランプや本を持ってきて遊べばいいだけだし」

 「そうだねっ! なーちゃんの言う通りにしよっ!」

 「うむ、遊びどーぐ持ってくることにしよう」

 「悪いけどそうしてくれるかな……。持ち込みに関しては俺からちゃんとみんなのお父さんお母さんに話して分かってもらうことにするよ」

 「よろしく。あとカードゲームするときはあんたも一応参加しなさい? なんか弱そうだけど人数多い方が楽しいし」


 腕組みをして横目で俺の方を見ながら奈々はそう言った。


 「任せろ。高校生の恐ろしさを見せてやろうぞ」

 

 奈々はすっかり俺の事を低く見ているようだが、どうやら遊びには入れてもらえるらしい。

 何はともあれ奈々は俺の事をあまりいいように思ってはいないが、のけ者にするってことは無いらしいのでちょっと安心した。

 

 「しかし、今日は何もないから何もすることがないな……」

 「そうですね……。あ! よろしければ私たちがこれから経験する上級生になった時のお話とかしていただけませんか!?」

 「うん、いいぞ」

 「そうね、少しは暇つぶしになるかしら」

 「ふむ。宿泊学習とか修学旅行とか委員会とか……もっと難しくなるお勉強の事とか」


 どうやら三人もこれからのことはとても興味があるらしい。


 「そうだな、みんなもう授業って6時間目まであったりするのかな?」

 「そうですねっ! 早く帰る木曜日以外は全部ですね!」

 「え? 木曜日以外全部6時間授業なのか!?」

 「そうよ、何よ当たり前のことに驚いているのよ。あんたの時も同じなんじゃなかったの?」

 「いや……。水曜とか月曜は5時間目までだったんだけど……」

 「ふむ、私たちのほうがいっぱい勉強してる」

 

 たしか美咲の言う通りここ最近勉強する量が小学生もかなり増えたのだとか。脱ゆ〇りをかかげてから本格的に勉学内容が変わり始めたということなのだろう。

 

 「なら勉強は気にしなくても今のままみんなが真面目に勉強してれば何にも気にすることは無いと思うよ」

 「ふむ、一安心」

 「どうだか。私たちよりあんまり勉強してなかった人の意見だし、美咲もあんまり真に受けちゃいけないかもよ?」

 「ちょっと、なーちゃん……」


 相変わらず奈々が辛辣である。可愛いからいいけど。

 

 「高学年に入ってからの宿泊学習や修学旅行はいい思い出になるから楽しむといいよ。三人一緒にいろんなところを回ってくるといいよ」

 「わーい! どんなところに行くのでしょうか!?」

 「どうなんだろ、何年か経つと行く場所が変わったりするからね~。でも友達とならどこに行っても楽しいと思うよ」

 

 ぶっちゃけ俺としては有名な建物の○○に行ったこととかよりも、友達と一緒に何かしたとか、一緒に寝たとかはしゃいだとかいうほうが記憶に残っているものだ。


 「色々聞いていると楽しみになってきましたっ!」

 「うむ」

 

 鈴と美咲は俺の話を聞くだけで目をキラキラと輝かせながら聞いていたが、奈々は少しだけ不安そうな顔をしながら聞いてくる。

 

 「その……。泊っているときに寂しくなったりしない? お父さんお母さんに会えないみたいなので……」

 

 高校生の俺からすればほほえましい悩みだが、彼女にとってはとても大事な問題なのだろう。


 「確かに5年生のときの宿泊学習の時はそういう子も結構いたよ。たった一日だけど不安になったりとかね。でもお友達もいるし大丈夫。楽しいものになるから心配しなくてもいいよ」

 「そう……よね!」

 

 俺の言葉を聞いて奈々の表情がぱぁっと明るくなったので俺もうれしくなった。俺に対して辛らつな言葉を吐いている奈々だが、可愛い面が見られた。

 

 「ほかにもいろいろ教えてくださいっ!」

 「よし、これは俺が小学校6年生の時の話でな……」

 

 こうして困っていた苦肉の策で始まった会話がとても盛り上がり、彼女たちと楽しい時間を過ごすことが出来た。

 

 

 

 

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