第2話 「勉強をします!」

 「と、とりあえず早速活動していこうか。みんなはまずなにをしているのかな?」

 これ以上この話題を広げられると奈々あたりにバカにされたり、辛らつな言葉をぶつけられそうだ。

 ということでとっとと活動に入るべく、話をやや強引気味に切り出した。

 「何ってそりゃあまずは勉強よ。さっきも言ったじゃない」

 奈々はそう言うと、持ってきているカバンから教材を取り出した。進〇ゼミと書いてある。

 「学校の勉強以外もしているんだね」

 「はいっ! お父さんとお母さんにしっかり勉強していい学校に入ってねといわれてますっ!」

 「なるほどね」

 ということはこの三人を高梨高校に入学させようと考えているのかもしれないな。高校生が面倒みることになって嫌な顔をされるかと不安だが、高梨高校の生徒だと言えば多少は受け入れてくれるかもしれない。

 高梨高校はここいらの地域では断トツの進学校である。俺もかなり頑張って塾などで勉強して合格できたところだ。

 「まずはべんきょーをしてその後に遊ぶ。いつものながれなのですよー」

 「了解。じゃあ勉強していこうか。一応高校生だから君たちのお勉強は見てあげられると思うから、ちょこちょこアドバイスをしていくね」

 三人は勉強道具を広げるとそのまま真面目に教材に向かう。それを後ろから見させてもらうと、なかなかレベルの高い問題をしている。親が週末も働いているような家庭だ、教育にも熱が入っているということだろう。あまり変なことを教えないようにも気を付けないといけない。

 自分のせいで成績が下がりましたとかなったら一大事である。

 「ねぇねぇ、春輝。私たちちょうど理科や社会やらが入ってきて色々勉強の仕方も変わってくるんだと思うんだけどどうしたらいい?」

 奈々が鉛筆を動かしながら、そんなことを尋ねてきた。小学四年生らしからぬあまりにもしっかりとした質問に驚いた。

 「そうだね……。正直社会は学校はまだ地域についてとかそのレベルだからなぁ……グラフの読み取りだけは出来るようになればいいよ」

 「理科は?」

 「まぁ虫とかちょっと女の子だと苦手なものもあるかもしれないけど、理科はちょっと頑張った方がいいね。でもまだ四年生なら国語や算数をしっかりやればいいよ」

 「おっけい。意外とまともな答えをもらえて驚きだわ」

 「な、なーちゃん……。言い方きついってば……。ご、ごめんなさいっ」

 「いやいや。最初から気楽には無理だと思うから気にしないで」

 そんなやり取りの後、三人は再び黙々と勉強に取り組んでいる。すらすらとペンを動かしていてこの三人の年でここまで集中して勉強ができることにとても感心した。

 「ここ、ちゃんと問題をもう一回読んでみて」

 「は、はいっ! あ! こういうことでしょうかっ!」

 「そうそう」

 「う~。分かんない」

 「奈々、そこはこうして……こうしたらどんな式が出来る?」

 「あ! さっき出てきた式と同じ」

 「そうそう」

 鈴と奈々はちょこちょこと問題を解く中でミスや分からないところがあるようだが、俺が少しアドバイスやヒントをあげるだけで簡単に解いているので理解は早いようだな。

 「うりゃあーーーー」

 「おおー。美咲は早く解きつつも、ミスがないな」

 「ふっふっふー」

 一方、美咲はほかの二人よりも早く解きつつもミスや悩むところが少なく俺がアドバイスをしなくてもどんどん問題を解いている。

 「美咲は問題用紙を”汚す”ってことができるんだね」

 「ほえ? おにーさんそれはどういうこと?」

 「二人もちょっといいかな?」

 「何でしょうかっ」

 「何?」

 鈴と奈々にも一緒に説明することにした。まずは美咲のテキストを鈴や奈々にも見せながら説明をする。

 「美咲は問題にメモや線を引いてちゃんと取り出したい情報を分かりやすくしているよね? これを鈴や奈々はしていない。これをしないと把握って限界があるからこういうこと美咲みたいに自然に出来るように二人にもなって欲しいな」

 「で、でもさ。こんなに答え以外のところにいっぱい関係ないこと書いちゃうと何か言われそうな気がするんだけど」

 「確かに小学生の先生なら言うかもしれないね。でも、言われるなら解いた後に消しちゃえばいいし、正直中学校からは問題用紙と解答用紙って分かれるから問題用紙にはいくらでもメモできるようになるんだよね」

 「そうなんですか?」

 「うん。だからこうやって普段問題解くときからこういう癖をつけて欲しいな。二人とも理解は出来ているからね。あとは条件の把握だけ」

 「なるほどー、それが汚すということなのですか?」

 「そうそう、言い方だけだと嫌な響きだけど大事なことだよ」

 この癖をつけておかないと、これから彼女たちはどんどん大きなテストを受けないといけなくなる身である。入試や大事な試験で心理的に余裕がないと間違いなく見落としなどが出る。

 そういうのを防ぐためには普段から癖をつけることだ。こういうことは少しだけ先に生きてきた俺が持った経験値を彼女たちに伝えてあげられたらと思う。

 「な、なるほどね! ちょっとは春輝の言っていることを信じてあげることにして試してみることにするわ」

 「春輝さん! 私も試してみますねっ!」

 二人も実践してくれるようだ。終始美咲は得意そうな顔をしていてとても可愛らしかった。

 

 

 

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