最終話 皇帝円舞曲

 第37代サンレオナール国王、ガブリエル=アルフォンスは歴代きっての賢王と呼ばれた。


 ミラ・ルクレール侯爵令嬢を妃に迎えた彼はその翌年に父王から王位を継ぎ、二十代で即位した。


 国王となった彼は近隣諸国との良好な関係を築くことに努め、治世中は再び大きな戦が起こることはなく、王国民は平和な世を謳歌した。


 彼は即位するなり内政の大改革も行う。まず王宮内での職員の採用、配属、昇進に身分だけでなく前代未聞の能力制を取り入れた。だが今まで高位の貴族だけが取り仕切っていた王宮内の各院では少々の混乱や反発も起こった。


 特に一番改革に反対だったのは貴族院であった。貴族院とは王国内でも有数の高位の貴族十数名で形成されており、宰相職でも彼らの同意を得られなければほぼ何も出来ないという、実質国政を牛耳っている部署だったのだ。


 即位当時若かったガブリエル国王であるが、時には有無を言わせず、貴族院の頑固な長老達も黙らせ、彼らの言いなりになることもなかった。二十代の若さで既に王としての威厳を放っていたのである。


 かなりの痛みを伴った内政改革だったが、結局は能力制を取り入れたことにより、王の元には優秀な側近や臣下が集まる。そして治政をより順調に行えることとなった。


 このように王としては毅然と貴族院までも黙らせるガブリエル国王であった。しかし、彼は大変な恐妻家としても知られていた。王の近くに仕える側近や親しい人々は王妃に頭の上がらない王のことを指して『喧嘩雷火事王妃』と噂していたものだった。


 その王妃も国政に口を出すわけでも、彼女の身内を王宮内の要職に据えるわけでもなく、彼女は王妃としての公務を果たすだけだった。王が王妃に頭が上がらないのは私生活だけでのことだったらしい。


 夫婦は結婚後ずっと仲睦まじく、二人の王子と一人の姫に恵まれた。第一王位継承者として生まれ、若くして王の位に就いたガブリエル国王は、常に自由のきかぬ堅苦しい立場にあったが、ミラ王妃という伴侶を得たお陰で楽しい人生が送れていると周りに良く語っていたという。



     ――― 完 ―――



***ひとこと***

ガブリエル国王の優秀な臣下の筆頭はもちろん文官のあの方ですね。

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