第2話

「……武器よし」


手元にある先ほど買った銅製の剣(1P)と防具代わりの鍋のふたを見ながらそう呟く。


「魔物よし」


そして、眼下には先ほど買った【スライム】とそれをさらに【眷族化】したピンク色のスライムどちらもいることを確認する。


「出入口よし!」


そうしてさらには、机の上のパソコンに目を向ける。

するとそこにはダンジョンの一部ではあるはずなのに、そこだけは岩肌の壁で、本来石畳でできているはずのことダンジョンだけは明らかに浮いている場所であった。

さらにそこには無数のピンクと緑のスライムの群れ。


「かーさま、こっちもばっちりだよー」


「よし!」


何がバッチリかはわからないが、自分の後ろにちょこんと座る軟体幼女にもとりあえず、快く返事を返す。可愛いから。

でも、かーさまじゃなくてと~さまって呼ぼうな!いや、お兄たまの方がいいか。


「それでは、いよいよこの時をもってダンジョンの入り口を開放する!」


「おー!」


「でもぶっちゃけ、ここの外には何があるのかは全くわからん!

 普通に森林や砂漠のど真ん中かもしれんし、もしかしたら町中かもしれん!

 最悪の場合は、俗にいう冒険者がずらりと出待ちしている可能性ある!」


「冒険者って怖いの?」


「たぶん!あんまりわからんけど!しかし、だからこそ、だからこそこのように万全を期してからこの入り口を開けるのだ!

 ……いや、色々たりないのは十分承知しているけどね」


「そーなの?」


「そーなの」


隣にいる軟体幼女の頭をなでつつ、そう返事を返す。


「それじゃぁ、まずは一瞬だけ扉を開けるぞ!

 3,2,1!!……ぽちっとな」


そうして、決心してようやく押されるパソコンのエンターキー

それと連動するかのように開くダンジョンの入り口。

するとそこに広がっていたのは、一面の青空……ではなく一面の白い、いや灰色の雲、夜空というほどではなく、単純な曇り。

ダンジョン開通記念日という記念日としては最悪の天候と言えよう。

さらに木になるのは宙に浮かぶ無数の白い結晶、どう見てもそれは雪である。

それが大量にごうごうという音とともにダンジョン内に流れ込んでくる。

そして、大量の積雪と風のせいでわからないが、もしかしてなくてもここは……


「もしかして、ここ、雪国にあるのか?」


いや、もしかしなくてもそうなのだろう。

思わず一瞬だけ開けておくという宣言も忘れ、扉を開けっぱなしにして、外の様子の確認を続ける。

ぱっと見外は一面銀世界であり、人の気配や様子は一切感じられない。その上、ブリザードに覆われているせいでまともに先が見通せないというのもある。

異世界についてさしも詳しくない素人の考えであるが、こんな一面雪景色な中、突然人間の侵入者が偶然にここを通りすがって、この中に入ってくるなんてレアなイベントが起きるだろうか?いや、ないだろう。


「……はぁ、なんだ。無駄に緊張したじゃねえか。

 バカヤロウ」


おもわず、軟体幼女の教育に悪いとわかりつつも口の悪い独り言が出てしまう。

正直、もしこの世界にことさらに自分を害する何かがいれば今この瞬間が一番ねらい目なのではとか考えてすごく警戒していたのだが、どうやらこの様子を見るに自分の予想は杞憂であったようだ。


「えっと、かーさま……その、大丈夫?」


「ん~?ああ、大丈夫大丈夫。

 結局外に人影はいないみたいだしねぇ。

 それならダンジョンの入り口を開けっぱなしにしても問題ないかなって」


「う~うん?でも、入り口にいるスライムさんたちが次々にコチコチになってるけど……」


「あ」







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〈商品紹介)


【モス・スライムLv1】の詰め合わせ 30+5匹セット  3→1DP(大特価セール中!!)

★★★☆☆ (3.2)


※在庫有  即日


〇商品の説明

ごく一般的な軟体生物系の魔物です。

簡易の防衛力やダンジョンの掃除屋、手軽なペットとしての最適です。どんな餌でもすくすく育ち、簡単な命令ならば理解するだけの知能を持ち、適度な速度で増殖します。

強い毒性もなく、魔物の餌や生贄、囮としても最適です。


〇カスタマーレビュー

→参考なったレビュー


@★★★★★  初心者魔王&ダンジョンマスターにお勧め!

文字通り、初心者の魔王やダンジョンマスター向けの魔物です!

とりあえず、初めて魔物を買うというならこれを選んでおいて損はありません。

何でも食べるの書かれてますがさほど大食いでもありません。

それゆえ、とりあえず、魔王城やダンジョンに魔物を配置しておきたいって人にはピッタリでしょう。

裏技として、餌もないのに肉食系の魔物を買ってしまった人や肉しか受け付けない種族になってしまった魔王の食事問題のために購入されることもあるそうです。


@★★★★☆  生体ル〇バ

とりあえず、ダンジョンマスターのオイラには最初期にお世話になったため改めてレヴューを。

とりあえず、こいつの特徴は本当に安くて便利な魔物であることだ。

初心者ダンジョンマスターの頃は、とりあえずこいつを買ってダンジョンにはなって増やしたり、眷族化や配下への命令の練習に使用したものである。

個人的にはこいつの何でも食べるという特性は、塵やゴミ、排泄物も指すので、ゴミ箱替わりや掃除機代わりにできるので便利だった。

そのうえ、生命力がすさまじく、ゴミや塵だけで成長増殖するのはもちろん、水だけ空気だけ、果てには魔力だけでもしぶとく生き残る。そのうえ、どんな過酷な環境やダンジョンでも数か月かければ適応できるという柔軟性も持っている。初心者ダンジョンマスターが適当に育ててもまず繁殖に失敗しないのはこいつの最大の利点と言ってもいいだろう。

でも、その代わりすっごく弱い。戦闘力のセの字もないから、もうマジで弱いのが欠点。どのくらい弱いかって言うと、別に勇者や聖職者でない、普通の人間や家畜、野ネズミにすら殺されることがある程度には致命的。そのうえ、簡単な命令なら大丈夫だけど、複雑な命令はどう頑張っても受け付けてくれない。だから、あくまで初心者のころ様。ある程度DPに余裕が出来たら別のを買うのがベストな気がする。そういう意味で★4じゃないかなって思う。


@★☆☆☆☆  死ね

増えすぎたスライムが処理できないんだが!!!!!!

酸で一気に処理しようと思ったら、勝手に【アシッドスライム】とやらに変化して、俺様の根城がぼろ悪露にされたんだが!!!!!!!!!

スライム属全滅しろ!!!!!!!!!!!!


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「でも、さしものこのスライムも冷気には弱かったみたいだねぇ」


あらためて、購入したこの緑スライムである【モススライム】を手慰みにいじりながら、この魔物のレビューを見直す。

ぬるぬるというよりはもちもちぺとぺとする触感が触っていて楽しい。

そのうえ、のびろーと命令するとその身をぐいーんと伸ばしてくれる程度にはこちらの命令を理解してくれる。お風呂代わりにもなる。

たしかにこれは、もし現代日本にいたら、ペットとして大人気だっただろう。

今回のダンジョン入り口開放ため購入した魔物であるがゆえ、防衛力の水増しという本来の意味では空回りしたが、こうして寂しかった自分の心を和ませるのという点では購入は大成功であっただろう。

まぁ、眼も口もないから本格的コミニケーション相手にはちょいと不向きだが。


「かーさま、それ食べていい?」


「共食い……いや、まぁ、それは今更か、うん」


でも、そちらもすでにそれも、スライム購入のおかげで解決済みである。

目の前にいるのはぺろぺろと凍ったモススライムをなめる半透明のゲル状少女とそれに腰掛けられたピンク色のスライム。

その幻想的な可愛さに何とも言えないほんわかした気持ちにさせられる。


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名前:未設定


種族:★ピンクスライムLv0


職業:ノービス


スキル:誘惑 発情


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名前:未設定


種族:★スラキュバスLv1


職業:ガード


スキル:誘惑 魅了 


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で、いったいこの新しいスライム達はいったいどこから来たかというと、簡単に言うと【眷族化】のおかげである。

先日の石ころ相手にすら失敗した【眷族化】であるが、DPで購入した【モス・スライム】たちには問題なく効果を発揮することができたのだ。


『……??ここはどこ?』


もっとも、スライム眷族化の実験中にまさか、そのうち1匹……いや、1人がまさか人型になり、ましてはしゃべり始める上に自分を親としてなついてくるなど、いろんな意味で予想がつかなかったが。

もっとも、その後モススライム眷族化を続けてみたが、そもそもの眷族化成功率が4割程度でヒト型である【スラキュバス】になったのは彼女だけ。

それ以外の眷族は元の【モススライム】と色と匂いくらいしか変わらない【ピンクスライム】とやらにしかならなかったため、彼女【スラキュバス】とやらはいろいろイレギュラーでrareな存在なのはなんとなく理解できた。

スラ娘ハーレムの道ルートはないってさ!残念だったな!


「でもなー、そうなると困ったなぁって」


「??どうしたのかーさま、もしかしてお腹壊した?」


「なんでやねん」


突拍子もないことを言うスラ娘に苦笑しつつ、現状を整理してみた。

さて、真面目なことを言うと自分は元の世界に戻りたい。

いや、最悪戻れなくてもいいから、この性別はどうにかしたい。

で、一応ワンちゃん魔物を売ってるぐらいだから、性転換薬みたいなのをショップで売ってないかなーと探してみた結果……普通にあった。



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〈商品紹介)


【性転換薬Lv1】  420万DP(大特価セール中!!)


※現在のあなたのレベルでは、この商品を購入することはできません


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そうして見つけたのがこれだ。

しかし、自分のレベル不足ゆえか、これ以上詳しいことは見れなかったが、これが意味することは自分が元の性別に戻るためにはレベルと大量のDPが必要だということだ。

しかしだ、この必要DP量はあまりにもえげつなさすぎる。

そもそも先日購入した、稲荷&牛乳無限冷蔵庫ですら、セット価格で40P以下だったのにこれはそれの10万倍以上のお値段、値段設定がおかしいと言わざる得ない。

さらにレベルも足りず、この薬の詳細がわからないため、購入を検討することすら許されない。


かくして、自分はDP入手とレベルアップのためにダンジョンの入り口を開放してみて、経験値やらDP稼ぎができないか試したわけだが……


「まさか、外が絶賛雪国だったとわねぇ。

 ……これ、周囲10キロ以内に人が住んでるかも怪しいぞ」


「?かーさま、やっぱり一人だと寂しいの?」


「ん~、そういうわけじゃないけどねぇ」


純粋なスラ娘の瞳に良心の呵責を感じつつ、ひっそりと溜息を吐いた。

いや、確かに外に出待ち集団は嫌だとか、いきなりハードな勇者軍団はやめてくれとは願ったものの、さすがに自分の住んでいる場所が無人の雪原かもしれないと思うと色々と気が滅入るものだ。


「元気出してかーさま!

 きっとすぐにお友達来てくれるから!大丈夫!」


「……ん、そうだな、ありがとう」


見当違いな励まし方をスラ娘をなでつつ、何とか自分の気を再鼓舞する。

そうだ、まだ外が雪原だったからと言って周りが無人の荒野だと決まったわけではない。

そうやって何とか自分の気をごまかし、この日はスラ娘を抱きながら、布団で休憩したのであった。

なお、スライムとサキュバスという鉄板な組み合わせであったのに、お互い無知と元男の組み合わせでは特に間違いなんて起きなかったことをここで明記しておく。






「かーさま!!みてみて!うさちゃん!!真っ白なうさちゃん!!!」


なお、この日以降ダンジョンの扉を開けっぱなしにしたものの侵入してくるのは【ウサギ】【オコジョ】【キツネ】という野生動物オンリー。

やったね!この新興ダンジョンは現地住民からそこそこ人気ですぞ!

ただし、野生動物だけではあるが。


「うさぎうさぎ~~♪今夜はウサギ鍋~~!!」


そんな無邪気に喜ぶスライム娘を見つつ、本当に人間が周りに住んでいないという事実を確信し、目頭が色々と熱くなるのであったとさ。

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