第6話 Aブロック一回戦第一試合
『レディィィィィィィィイイイイイイス、エェェエエエンド、ジェントルメェェェエエン!大変長らくお待たせいたしましたァッ!ただいまより、日本妖怪王座決定戦、一回戦第一試合を行います!』
夜行さんの実況に、ごうッ、と会場が揺れる。声が混ざり、重なり合って、それは一つの大きな波となった。
花道の入り口にスポットライトの光が集まる。
『まず最初に登場するのは!天狗一族空前絶後の天才、エリート中のエリート、今大会優勝候補の一角であります……山ぁぁぁああ!天ッ!狗ぅぅぅぅぅぅぅう!』
笛の音と太鼓の音が鳴り響く中、花道に山天狗が現れた。
『さぁ、姿を現しました山天狗。エリート一族を代表する彼は一体どんな技を我々に見せてくれるのでしょうか?今日はセコンドに幼き頃からの好敵手であります木の葉天狗が付き添っています。軽やかに、そして力強く、花道を進んでまいります。おぉ?!』
大歓声に背を押されリングへと向かう山天狗が、花道の中ほどで立ち止まった。
リングまではまだ十メートルほどの距離がある。
『どうしたのでしょうか、山天狗?……ま、まさかァ!』
山天狗は入場のときと同じように、膝を曲げ、溜めを作ると一気に地を蹴り、跳躍した。
『と、跳んだァーッ?!先ほどよりも高い!そして距離もあります!さっきは本気じゃなかったのかぁぁぁああ?』
それを見た木の葉天狗は呆れ、苦笑する。
「はは、あいつが本気出したらもっと跳べるよ」
長い滞空を終え、山天狗がリングのほぼ中央に膝を曲げ音も無く着地する。そうしてゆっくりと立ち上がると、高々と拳を突き上げた。
『早くもガッツポーズです、山天狗!』
自分のコーナーに戻ると、木の葉天狗がにやにやしながら出迎える。
「珍しいな。お前があんなパフォーマンスをするなんて」
山天狗は少し恥ずかしそうに元々赤い顔を少し赤らめながら、言う。
「こういうのはあまり得意ではないが、まぁ百年に一度のお祭りだ。俺も少し浮かれたことをしてみたくなってな。こんな気分も、なかなか悪くない」
会場は早くも沸騰したような盛り上がりを見せている。
再び花道が照らされた。
軽い跳躍をしながら現れた妖怪に、会場が控え室の面々と同様のリアクションを見せた。
『あ、あれは誰でしょうか?入場してくるのは貧乏神のはずですが……』
「あれが貧乏神だよ」
隣に座るぬらりひょんが可笑しそうに言う。
「シャワーでも浴びたんだろう。垢を落としてみりゃあ、なかなかいい面構えじゃないか」
『な、なんと!貧乏神です!先程の姿とは似ても似つかぬ姿!長髪はまとめて一つに縛ってあります。髭が無くなったその素顔は意外過ぎるほどの美青年!そして見てください、あの体を!本物です!あの体は本物の体です!予想外もいいところだァ!これほどのモノかッ!ぬらりひょん氏推薦、貧乏神ィィィイイ!』
貧乏神は花道を駆け、リングのロープを軽々と飛び越えた。
マットの感触を確かめるように二、三度跳躍すると、リング四方の観客に丁寧にお辞儀をする。
もはや入場の時のようなブーイングは無い。
誰もが皆、この男の試合に期待をしていた。
「両者ッ、前へッ!」
主審である【油すまし】が二人を呼ぶ。
二人はリング中央で相対した。
これからお互いの全力をかけて戦う二人。
身長は高下駄の分、山天狗の方が高いが、リーチはほぼ同じだろう。
体重差もさほどなさそうである。
下馬評では山天狗有利。しかし、貧乏神の無駄の無い研ぎ澄まされた肉体は未知数の何かを思わせる。
「いいか、ルールはない。何をしても良い。お互い、悔いが残らぬよう存分に戦いなさい」
それだけ言うと、握手を促す。山天狗と貧乏神は固く握手を交わし、自分のコーナーに戻る。その戻り際、貧乏神が山天狗に声をかけた。
「なぁ」
「なんだ?」
「あのセコンドさ、あんたの友達かい?」
山天狗は一瞬考えて、にやり、と笑って答える。
「……いや、ライバルだ」
「へぇ~……いや、いいんだ。ありがと。いい試合をしよう」
貧乏神は山天狗の答えを聞くとさっさとコーナーに戻っていく。
「なんだ?」
山天狗は訝しがりながら、コーナーに戻った。
「何を話したんだ?」
木の葉天狗が聞いた。
「いや、セコンドは友達かと聞かれた」
「へぇ、で?」
「ライバルだと答えておいたよ」
山天狗がにやり、と笑う。
木の葉天狗も同様に、笑った。
セコンドアウト、とアナウンスが響く。
「じゃ、行ってくる」
山天狗はそう言うと木の葉天狗に背を向けた。
「はじめぇえ!」
どぉんっ!という太鼓の音と共に、主審が大きく腕を交差させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます