第3話 対戦カード発表

 ぬらりひょんの開会宣言後、出場選手たちはリングを降り、控室へと下がっていく。

 全員が会場から姿を消すと、実況の夜行さんが声を上げた。


『それでは!本大会、注目の対戦カードを発表したいと思います。ミドル級日本妖怪王座決定戦は出場選手全十六名のトーナメント形式で行われます。昨年優勝者が諸事情により不出場……ということもあり、シードはございません。Aブロックの勝者とBブロックの勝者が決勝戦で戦います。もし万が一、試合中の負傷等により両選手が次の試合に進めない場合は補欠選手が代わりに試合をするということになっております。補欠選手の顔ぶれは大会主催者である、ぬらりひょん氏しか知りません!』


『皆が納得するような選手は用意しておる』


『おお、これは楽しみな発言!それでは、早速対戦表を発表してまいりましょう。現在控室にいる各選手には、直前まで対戦相手は明かされない仕組みとなっております。さぁ!各ブロック、一回戦の対戦カードを発表したいと思います!』


 会場に設置された巨大スクリーンに、対戦カードが映し出される。

 会場が、どよめく。


【Aブロック】 

 第一試合・・・山天狗VS貧乏神

 第二試合・・・絡新婦VS小豆研ぎ

 第三試合・・・朱の盆VS 釣瓶落

 第四試合・・・手長足長VS泥田坊


【Bブロック】

 第五試合・・・塗り壁VS岸涯小僧

 第六試合・・・児啼爺VS赤頭

 第七試合・・・天邪鬼VS八百八狸

 第八試合・・・一反木綿VS覚


 選手たちは未だ自分の対戦相手を知らない。

 控え室に戻った選手たちを待ち受けていたのは、まだ若い、スーツ姿の【化け猫娘】であった。


「あら、随分と可愛い係員さんね」


 絡新婦が猫娘を見て、微笑みながら言った。

 猫娘はショートボブの頭からにょきっと耳を生やしている。可愛い顔だ。目はやや吊り上っているが、パッチリと大きい。鼻も小ぶりで、肌も綺麗だった。

 猫娘は「にゃは~!ありがとうございます!」と言って、にっこりと笑う。口元からこぼれる八重歯がやけに鋭い。


「はいは~い、皆さん。ここで少々説明がありま~す!」


 元気いっぱいの声で言うと、手元の資料をぱらぱらとめくりながら選手たちにこれからの予定を説明し始める。


「まず、皆さんには自分の対戦相手は直前までわからないようになっています。ドキドキですね!控え室は現在皆さまがいるここです。控え室でのいざこざはご法度ですので、そこんところはよろしくお願いします!」


「ちっ、相部屋かよ」


 天邪鬼が小さく舌打ちしてごねる。猫娘は聞こえないふりをして、続けた。


「試合が始まる直前に係員のものが控え室に出場選手を呼びに来ますので、みんないい子で待っていてくださいね!なお、控室からの出入りは自由ですが、試合会場での観戦は公平性を規すために不可となっております。他の人の試合を見て対策説明は以上です。では、何か質問がある方はいらっしゃいますか?」


 八百八狸の総大将、隠神刑部が、すっ、と手を挙げる。


「はい、隠神刑部さん」


「応援団やセコンドは一緒に控え室にいてもいいのか?確か出場希望調書の欄にはセコンドを指定する欄があったはずだが」


「はい、それにつきましては『セコンドのみ』控え室に立ち入ることが許可されています。応援団の方たちは観客席でお待ちいただくことになります」


「そうか、わかった」


 続いて天邪鬼がにやにやしながら手を挙げた。


「はい、天邪鬼さん」


「控え室での選手同士の会話は禁止じゃないんだよなぁ?」


 不遜な口調に猫娘はやや引き攣った表情を見せるが、パラパラと手元の資料を確認して、答える。


「ええ、それは禁止されていません。皆さん試合開始まで仲良くしてもらって結構ですよ」


「そうね~せいぜい仲良くさせてもらおうかな……」


 天邪鬼はそういうと品定めをするような眼で各選手を舐めるように見回した。


「他に何かある方はいらっしゃいますかぁ?」


 おずおずと、後ろのほうで手を挙げる者がいる。

 襤褸切れを身に纏って酷いにおいをさせる、貧乏神だ。


「は、はい、貧乏神さん」


 貧乏神はためらいながら小さな声で尋ねる。


「あの……えぇと……シャワーとかってのは……あるのかな?」


 伸び放題の髪の毛と髭で顔は見えないが、その声はやはりかなり若い。

 青年と言っても良いほどの幼さを残す声だった。


「えっ?シャワー?はい、ございますが……」


「本当!?それは勝手に浴びてもいいのかい?」


「ええ、選手の方には各施設は自由に使わせるようにと、ぬらりひょん氏から承っております」


「そうか、よかった!いやね、何せ二十年以上風呂なんか入ってないもんだから、せっかくの晴れ舞台だし、久しぶりにさっぱりしたいなと思って」


「そ、そうですか……存分に二十年分の垢を落としてくださいね。他に質問はございませんか?」


 選手たちの中にもう手を挙げるものはいなかった。


「はい、それでは私はこれで退散いたします!皆さん、ご武運を!」


 猫娘はそういうと控え室の扉を開け、廊下に出て行く。

 入れ替わるように、各選手のセコンドたちが入ってきた。

 喧噪を増した控室で、選手たちがそれぞれの準備をし始める。

 第一試合開始まで、あと5分。

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