2.現場百遍

 一通りの資料を読み終えた俺は、次にバークリィ氏の仮説と実際に行ったという検証について尋ねた。

 彼が考えた仮説は九つあった。

 糸で切る、針鋸で切る、二本の角材でせん断する、氷で剣を作る、冷凍する、溶解液で溶かす、爪や嘴を使う、酢漬けにする、流水装置を使うの九つだ。

 検証するも、結果的にどれも死体の切断面は再現できなかったそうだ。

「どの方法もダメで……残ったのが自動人形オートマタによる切断だったんだ」

「なるほど」

 説明された彼の仮説と検証に大きな疑問は感じなかった。むしろよく詰めた方だろう。……まあ、酢漬けはないとは思ったが。

 ただ、今のところひとつだけ彼が見落としていることがある。

 キィハという答えを見つけたことが盲点になったのだろう。それについて俺はふたつの可能性を考えていた。

「行きたい場所がいくつかある」

 俺は言った。

 現場百遍という言葉がある。何度も現場に足を運ぶことで見えてくることもあるだろう。そして先程のふたつ可能性についても自分の目で確認しておきたかった。

 あとは……もうひとつ考えたことがあった。理詰めで答えにたどり着けないという事は、犯人は奇想天外な方法で切断を行ったと考えられる。俺の考えた馬鹿馬鹿しい答えについて聞いておきたい人物がいる。バークリィ氏に同行してもらう方がきっとスムーズに事が運ぶだろう。

 唐突にスープの匂いがした。

 相変わらず良い香りで、俺の腹がくうと音を立てた。朝飯モーニングがまだだったことを思い出す。

 部屋の時計――これも魔法の品で高級品だ――を見ると九時半を少し回ったところだ。

 確認作業や現場に向かうのは朝食兼昼食ブランチを取ってからということに決め、俺はソファから腰を上げた。

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