第八話 再考
1.やり直し
俺の
当初はどうなるかと思ったが、それなりのところに収まったことに俺は胸をなで下ろした。
彼の理屈も分からなくはない。故にもっとも危惧すべきなのはここで彼と揉めて冤罪で引っ張られることだ。もしそうなった場合、俺のようなならず者の弁明を王都の役人どもがどこまでまともに聞いてくれるか怪しい。そういう意味では彼が素直で聡明であることに感謝しなければならないだろう。
そして、これを金にできるようなら
しかし、問題なのは……切断死体の謎だった。
正直なところ、まったくわからない。
いったい誰が? どうやって?
ただまあ彼がこれだけ主張するからには実際に切断死体はあるのだろう。あるということは、何らかの手段で切断することが可能だと言うことだ。これに関してはこちらが提案し承諾されてしまった以上、何とかして謎を解くしか無い。
明日、改めて彼の部屋に伺う旨を約束をし、この日はお開きとなった。
翌朝。
俺とキィハは四階へと向かった。
階段や手すりの造りがもうすでに上質で、俺は早くも気後れしていた。
川沿い亭に唯一設けられた
四階にたどり着いた俺は、妙に艶のある廊下を歩き、目の前の大きなドアを二度ノックする。
「やあ、昨夜はどうも」
バークリィ氏は
その笑顔は屈託無く、昨日の大立ち回りがまるで夢か何かだったのではないかと錯覚させるほとで、俺は思わずその事を言及しかけて慌てて言い留まった。
玄関を抜け、部屋に案内され一歩踏み入れた俺は思わずほほうと声を出した。
四階に唯一設けられたその部屋は広く、出窓からいい具合に日が差していて、ある種の豪華さと快適さを持ち合わせている……はずなのだろう。
だが、残念ながら部屋は書籍と
とにかく物が多い。多過ぎる。
一番多いのは書籍の類で、高価であるはずのそれらが部屋中に乱雑に積み上げられている。
「そこに掛けて」
部屋で唯一物が置かれていない――きっと横に退けただけなのだろう――ダブルのソファを彼は指さす。
ふかふかのソファにキィハが戸惑う。その隣に俺が腰を下ろす。
「これが今回の資料さ」
彼が資料と称して出してきたものは、今回の事件に関する聞き込み調査の内容をまとめたものだった。
資料を受け取り目を通す。それは今回の聞き込みをそのまま文字に起こしたもので、作家の矜持なのかある種の読み物のような仕上がりになっていた。
俺は識字はあまり得意ではないが、妙に軽妙な語り口で書かれたそれは比較的読みやすく、そういう意味では有難かった。
キィハは俺とは全く逆の反応を示した。俺が読み終えたものを受け取って読んではいるのだが、何度も首を傾げている。
俺は資料を読みながらバークリィ氏に尋ねた。
「
「……父が急逝してね。後を継ぐことになったんだ」
話し出すまでに、ほんの少しだが間があった。それは彼の台詞が嘘だということを表していた。
作家さんらしく即興の作り話は上手なようだが嘘は下手なんだな、と俺は思った。
だがまあ言いたくない過去を詮索するのは俺の趣味じゃない。それ以上は聞かないことにした。
そしてそれとは別の、もうひとつの聞いておかなければならないことを口にする。
「あと……あのテーブルの事なんだが」
俺の言葉にバークリィ氏があからさまに狼狽した。
「うわぁ! そうだった! ……ディアヌさんに怒られるよ、あれは」
物損の事実を思い出した彼は分かりやすく頭を抱え
やはり高価な品だったのだろう。まあそりゃあ今の時代に一枚板のテーブルを作ろうと思えばどれだけの労力がかかるかを考えれば、あれが高価であることは必然でしかない。
「そそそっ、そうだっ! ま、真夜中に突然クラーケンが三階の窓からやって来てさ、怪力で割っちゃったってことにしたらいいんじゃないかなっ! どうかなっ!」
……俺は彼への評価を修正した。
作り話もたいして上手くない。
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