12.鍛鉄工房 鍛冶職人 ソパン・ブラース

名前【ソパン・ブラース】

性別【男性】

年齢【三十九歳】

職業【鍛冶屋】

外見【中肉中背 怒り肩】


 鍛冶屋は当時、軒並み廃業に追い込まれた職業のひとつだ。鍛冶屋にとって刃物が使えない世界は、自分たちが存在することに意味のない世界と同義語だった。ただ、金属の役割は切ることに限られている訳ではない。


 ――あ、バークリィさん。ども。そうなんですよ。たまにはこうしてガントゥも磨いておかないとと思ってね。これ以上神さまに嫌われたら何もできなくなっちゃいますから。よかったら中へどうぞ。いえいえ大丈夫ですよ。ガントゥの掃除もちょうど終わったところなんで。

 いやーしかしこんな小さな宿場町でも色々とあるものですね。調べてるんでしょ? 例のアレ。あーやっぱり。

 あの日の夜は家で寝てましたよ。何せあの雨でしょ。外に出るわけないじゃないですか。鍛冶屋は日が沈んだら酒飲んで寝る生き物なんですよ。――まあ、絶滅危惧種ですけど。

 そりゃ減りましたよ。見事なぐらいにね。うちは鍋中心にやってたからこうして続けて来れましたけど、剣や刃物扱ってた連中は軒並み廃業していきましたね。そりゃそうですよ。あの日を境に需要がゼロになったんですから。そりゃ成り立ちませんよ。商売として。

 なんでしょうね。そのあたりの心境は説明が難しいですね。鍛冶屋にとって花形はやっぱり剣なんですよ。俺が思うに、叩いて鍛えてぴっかぴかの剣を造りあげるのが鍛冶屋としての最高の仕事ですよ。次に包丁でしょうね。やっぱり鋭く切れて人様の役に立つってのは鍛冶屋にとってはやりがいがありますから。研ぎも我々の仕事の範疇でしたね。やっぱり素人が研いだものとは仕上がりが全然違います。長持ちしますね。単純に。素人は先だけしか研ぎませんから。職人は切れ味が持つように全体のバランス見て研いでいきますから。

 まあそれは家が鍛冶屋でしたからね。十二ぐらいの頃から親父に付いて鍋やらドアノブやらやりながら、刃物をやれてない自分に対する劣等感みたいなのは確実にありましたよ。同世代で刃物作ってた奴なんて睨みつけてましたもんね。俺も若かったし、刃物やりたいってずっと思ってましたから。

 でも……それがあの日から完全に消滅しましたから。当時……確か14歳だったと思います。親父が顔色変えて家に飛び込んできて……鍛冶屋の集まりが毎日のように行われて。まあ、荒れてたんでしょうね。怒声が飛び交い喧嘩があって。夜逃げもありましたね。まあ控えめに言って……悲惨でしたよ。

 いやいや、優越感みたいなのはなかったですよ。大変なことになったっていう思いのほうが強かったですね。この先どうなるんだろうっていう不安しかなかったです。この世から次々と金属が消滅するんじゃないかって本気で思ってましたから。まあ、そうはならなかったからこうして鍛冶屋を続けてこれたんですけどね。

 シナモーリフで鍛冶屋はもううちだけですよ。相変わらず鍋とかトングとかドアノブとかです。刃物と違ってメンテで仕事が来ないんでずっと貧乏ですよ。飯食って酒飲んだら何にも残りません。まあ親父の後を継いだってのもありますし、他に何もできませんからこうして細々と続けさせてもらってますけどね。

 でも……たまに、数年に一度ですけど。俺ね、剣を鍛えるんですよ。アミュレット握って祈りながら火入れして。なんていうか、馬鹿みたいな話ですけどね。もしランギヲートス様が俺たちに刃物を返してくれた時に、それを造る技術が廃れてたら鍛冶屋の復興が何十年も遅れると俺は思っていて。まあ夢なんでしょうけど……人間が刃物を取り返した暁には、その時はやっぱり俺、剣やりたいなって、そう思うんですよ。鍋叩きながらドアノブ作りながら。剣を鍛えるということに、心のどこかでずっと憧れてるんでしょうね。やっぱり。

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