11.銀光靴店 靴職人 シャンク・ベルルティ
名前【シャンク・ベルルティ】
性別【男性】
年齢【五十二歳】
職業【靴職人】
外見【小柄 鉤鼻】
銀光靴店は一度、閉店している。禁剣記念日以降、鞣し革の製造が出来なくなりストックも尽き、靴の製造が出来なくなってしまったからだ。靴職人のシャンクは三年かけて世界を巡り、あの日以前に作られたデットストックの革をかき集め、さらには新たな素材を手に入れシナモーリフに戻り、店を再開させた。
――いらっしゃいませ。ああ、これはバークリィさん。おっと……そこに腰掛けてもらっていいですか。保安員がそんな靴で歩いてちゃ駄目ですよ。少し磨いておきますね。
ほほぉ、事件の聞き込み。お疲れさまです。しかし、真夜中だったっていうじゃないですか。調査したところで目撃者はいないしクイボノもなさそうですし……あ、クイボノっていうのは推理小説に出てくる用語で、利益享受者って意味ですね。被害者が死亡することで得をする人は誰なのか、ってことです。気に入らない嫁を殺して若い愛人と結ばれるとか、兄弟を殺害して遺産を独り占めできるとか。
小説ですか? ミステリばかりですけど好きですね。最近読んだ中で面白かったのは時間のトリックです。現在と一年前の同じ時期事柄を交互に描写することで意外な人物が犯人だということを巧く隠してあって、ものの見事に騙されました。でも……本も高くなりましたよね。裁断ができない分どうしても製本に手間がかかるとかで。僕の若い頃の三倍ぐらいしますね。
あ……ここチップしてますね。すみません、右足だけ脱いでもらってもいいですか? 申し訳ありません。埋めるだけなのですぐに終わりますので。
ええ、長いですよ。三十五年です。十七歳で弟子入りしてからずっと靴ですから。まあ、好きなんでしょうね。そうじゃなきゃ続けられませんよ。こんな時代に。でもまあモルトリアのお陰です。
モルトリアですか? 全長二百カルダはある大きな鳥なんです。頭がでかくて飛べなくて、走るのが得意なんですよ。そして有り難いことに鳥類のくせに脱皮するんです。その脱皮直後の柔らかい皮をタンニンと塩で鞣してやれば、刃物が無くても革が作れるんです。いやあ話には聞いてましたがこんなに良い革が出来るとは思いませんでしたよ。良い具合に厚みもあるし強度も高いし、染め粉も良く馴染んでくれます。言うことなしですよ。これならこれまで通りの値段で良い靴を提供できますから。
あとは世界中を回って鞣し革を買い集めましたね。いやあこれは大変でした。譲って貰うこと自体が難しいですし、買い付けの値段も高かったですし。そりゃまあそうなるでしょうけどね。今じゃもう製造できないものですから。なので本革で靴を作ると昔の十倍はしますよ。はは、確かに。つい先程、本の値段のことをボヤいていましたけど、僕もそうしないと採算が合いません。人のことは言うものじゃないですね。
加工はこれを使ってます。円盤の周りに短い針が放射状に並んでるでしょ。この取っ手を持って、先端に付いたの円盤を、ローラーの要領で革の上に転がしてやるんです。そしたら針の刺さったところだけ穴が開くじゃないですか。同じ場所を何度も丁寧に転がしてやると、穴と穴が繋がって革がカットできる、というわけです。断面はざらりと仕上がりますけども、ヤスリで軽く擦ってやれば気にならなくなります。使っていくうちに丸みが増して艶も出てきますし。
ただ、デザインの話で言えば、焼き印は入れられますけどカービングは出来なくなりましたね。カービングというのは革の表面を専用の刃物で削って模様を描く技法のことです。僕、得意だったんですけどね。刃物が使えないのでこれに関してはどうしようもありません。焼きごてでラインを入れてみたりもしたのですがやっぱり印象が違いますね。もしお父様の靴でカービングの入ったものがあるなら大事に使ってやってください。今じゃもう作れませんから。あ、不要なら買い取りもさせていただきますよ。
まあでも……実際不便ですよ色々。神さまって意地悪な面もあるんだなって思いますね。もし……もしもですけど、魔法か何かで時間を遡って二十五年前に戻れるのなら、革と本を沢山買い込みたいですね。言いたくはないですけど……やっぱり昔は良かったですよ。でも、夢ですね。時間遡行は。いくらアミュレットに念を込めてもまあ無理ですよね。一回だけ、一週間だけでいいんですけど。そんな魔法ないかなあ……。
さてと、靴も綺麗になりましたよ、と。
ではお気をつけて。
聞き込み、頑張ってくださいね。
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