第333話 謝りたい
夕方――。
冬丘のファストフード店では、逢沢が森田と水瀬から呼び出しを受け、夏城中で起きたことについて、説明していた。
「はぁっ!?そんなことしたの!?」
「うっ……ぐずっ、ひっく……っ」
水瀬は、親友のとんでもない行動を知ると、テーブルを叩きながら立ち上がり、声をひっくり返して問い詰める。
「うっ……だって、だって……っ!そうたくんっ、いつまで経っても別れてくれないから……相楽さんから、別れてもらうしかないって、おもって……っ」
逢沢が嗚咽を漏らしながら答えると、水瀬は「はぁ……っ」と頭を押さえて着席し、森田は逢沢の常軌を逸した思考に、ポカンとした状態で固まっていた。
「でもっ、そしたら爽太くん……っ、すごく、おこって……っ!二度と会いたくないって……!わっ、わたしのこと……っ、もう……っ!友達じゃないっ、て……っ!」
逢沢はそう言うと、うわぁ~ん~っ!と大声を上げてテーブルに突っ伏し、森田はあまりに見苦しい逢沢の姿が恥ずかしくて、今すぐ彼女を置いて、ここから離れたい気分になる。
――が、長年逢沢と友人関係を続けて来た水瀬は、覚悟を決めたような顔つきになると、しっかりと目の前の逢沢を見据えて、口を開いた。
「舞……私、正直に言わせてもらうと、今回のことで本当に幻滅したし、私もこんなことする舞とは、もう友達でいるの無理かもって、一瞬考えた……」
「えっ……?」
逢沢が顔を上げ、ショックを受けた表情で水瀬を見る。
「ねぇ、舞……。舞のしてることはヤバすぎだよ……日下のことが好きなのに、井上と付き合って、気持ちを踏みにじって……。日下には毎日毎日しつこく連絡して、学校にまで行って……彼女に別れるように迫りに行くなんて……おかしいよ」
「だって……っ、私には爽太くんがいなきゃ……!爽太くんのことが大好きなのに……っ」
「――舞は、日下が好きって言いながら、日下のことを何も考えてないんだね……自分さえよければいいって……」
「そっ、そんなことない……っ!」
「舞、日下がどうして怒ったかわかる?」
「……わかんない」
逢沢はグズッと鼻を鳴らし、首を横に振った。
「舞がしてきたことに、日下は傷付いたんだよ……。彼女にまであんなことされて……我慢の限界だったんだよ」
「えっ……?」
「逆の立場で考えてみなよ……舞はもし、自分の問題に日下が巻き込まれて、酷い目に合わされたらって……」
「私っ、別に相楽さんに――!」
逢沢の脳裏に、自分が亜梨明に言った言葉や、彼女の肩を激しく揺すって、別れを懇願したことが蘇り、その時の亜梨明の姿が爽太に置き換わった途端、サッと全身の血の気が引いていくのを感じた。
「あ……」
もし、爽太くんが同じことをされれば、私だって――。
それを理解した逢沢は、「あっ……わた、しは……」と、唇に手を添え、ガクガクと震えだす。
「わたしが、したのは……っ」
今日のことだけでは無い。
毎日数十件も、自分本位で一方的なメッセージを送り続け、交際を迫り、亜梨明と別れるように催促した。
彼の元に押しかけ、爽太の恋人になりたい一心で、『相楽さんの代わりでもいい』なんて、図々しいことまで言ってしまった。
「……っ、うっ、うぅ……っ」
「…………」
水瀬と森田は、自分の過ちに気付いた逢沢を見て、少しだけ安心したように顔を見合わせる。
「まなか、ちゃんっ……ご、ごめんなさ……っ」
「うん……」
水瀬が逢沢の肩に優しく触れながら頷く。
「わたしっ、爽太くんに謝りたいっ……!いっぱい、いっぱい……嫌なことしたこと……っく、ちゃ、ちゃんと……っ、あやまって、許してもらいたい……っ」
逢沢はそう望むが、森田も水瀬も困ったように眉を下げ、気まずそうな顔になる。
「それは、ちょっと難しそうだなぁ……」
「そうだな……あの爽太が絶交宣言するって、よっぽどのことだし……俺から伝えようか?」
「いやっ!自分で言いたいっ……!爽太くんに会って、自分で謝りたいっ……!」
「でも、舞……日下に会ったらまた暴走しそうだし、一人で会わせるのは心配なんだけど……」
水瀬が不安げな気持ちで顔をしかめると、森田も「ん~っ……」と唸りながら腕を組み、「そもそも逢沢だけの呼び出しに、爽太はもう来ないと思う」と言った。
「……っ」
逢沢が再び目に涙を溜めると、森田はガシガシと後頭部を掻き、「仕方ねぇ……」とため息をつく。
「逢沢が爽太に謝る場に、俺とまなかもついていく。そんで、爽太には俺が連絡する!……ただ、爽太が応じてくれるかはわからんから、それだけわかっといてくれよ」
今はまだ、爽太の気が立っている可能性があるため、森田は後日彼に連絡すると、逢沢と水瀬に言った。
すぐにでも爽太に会って謝罪したい逢沢は、少々不満そうだったが渋々承諾し、今日はこれで解散となった。
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