第329話 打ち明ける(後編)


 爽太に促され、先に本屋へ向かった亜梨明達。


「さっきの女の子誰?」

 自動ドアを通ると同時に、風麻が亜梨明に聞いた。


「……爽ちゃんの、小学校のお友達だって」

「友達……?」

 風麻は先程の逢沢の様子を思い出すと、「なんかあの子……爽太に気があるように見えたけど……」と言って、自動ドアの外側を見る。


「うん、多分そうじゃないかな……」

 亜梨明が肯定すると、緑依風と風麻は「えっ!?」と、声を上げた。


「そうじゃないかって……お前……」

「亜梨明ちゃん、日下のこと置いてきてよかったの??戻った方がいいんじゃ……!」

 緑依風が入り口に指を差し、爽太の元へ向かうよう促すが、亜梨明は「大丈夫!」と言って、強気な笑顔を見せる。


「私、爽ちゃんのこと信じてるもん!」

「え……?」

 緑依風と風麻が口を小さく開く。


「逢沢さんが爽ちゃんのこと好きでも、爽ちゃんの気持ちが変わらないって信じてる。爽ちゃんが待っててって言ったなら、私はここで待つ。心配してないわけじゃないけど、戻って爽ちゃんを困らせたくない……だから、戻らないよ!」

 亜梨明はむんっと、口角を上げ、堂々とした表情で宣言した。


 緑依風と風麻は、少し前まで、爽太と自分が釣り合うのか不安に思っていた亜梨明が、自信に満ち足りている様子を見て、クスッと笑う。


「なんか、亜梨明ちゃん強くなったね」

「ホント?」

「冬休み中にいいことでもあったのか〜?」

 風麻がからかうように言うと、亜梨明は照れ笑いしながら「それはナイショ!」と人差し指を顔の前で立てた。


「あ、爽ちゃん来たよ!」

 本屋に入って来た爽太は少し元気が無かったが、亜梨明の姿を見ると、ホッとしたようにいつもの顔に戻った。


 *


 全員揃ったところで、爽太と亜梨明は美術やイラスト関連のコーナーへ向かい、緑依風と風麻は漫画売り場へ。


「うーん……やっぱり動物って難しそうだなぁ……」

 亜梨明は本を開き、ライオンの描き方のページを眺めているが、体の構造、骨の位置、横から見た図、たてがみの毛束の描き方を見て、ため息をつく。


「亜梨明、これなんかどう?」

「ん?」

 爽太が持って来てくれた本を手に取ると、『おとうさんとおかあさんとおえかきしよう!よいこのえかきうた!』と書かれた、幼児向けのものだった。


「爽ちゃんっ!!」

 亜梨明が怒ると、爽太は「ふっ、くくくっ……!」と、身を縮めて笑っている。


「も~っ!しかもこれ、対象年齢三歳からって……!私のことからかって遊んでるでしょ!?」

 そうは言いつつ、亜梨明は本を開き、どんな内容か律儀に確認している。


「ん~……でも、これならわかりやすいし、私も描けそう……あれっ?」

 亜梨明は一番最後のページまで捲り、今度は最初のページまで戻って、何かを探している。


「これ、“えかきうた”って書いてあるのに、CDとか音源が無いんだ……」

「それなら、亜梨明が歌詞に合わせて作曲してみたら?」

 爽太が提案すると、「それいいかも!」と、亜梨明も面白そうと思ったらしい。


「じゃあ、これにする!買ってくるね!」

 亜梨明がレジに向かうと、お目当ての本を買い終わった緑依風と風麻が、そっと爽太に近寄る。


「さっきの子のこと、説明してくれるんだよな……?」

 風麻が聞くと、爽太は表情を暗くして、「亜梨明と別れて、自分と付き合えってさ……」と答えた。


「はぁ?なんだそれ……」

「――で、日下はなんて答えたの?」

「もちろん断ったよ……。亜梨明には言わないでね……不安にさせたくないから」

 爽太が二人に頼むと、「相楽姉には、どう誤魔化す気だ?」と風麻が聞く。


「それは……まだ、考えてないけど……」

「……亜梨明ちゃんは、さっきの子が日下のことが好きって、気付いてたよ」

「えっ?」

 緑依風の言葉を聞いて、爽太が顔を上げる。


「でも亜梨明ちゃんは、日下のこと信じてるって……。日下が不安にさせたくない気持ちもわかるけど、下手に嘘ついて隠すくらいなら、正直に話した方がいいと思うな……」

 緑依風が言うと、「俺も、緑依風の考えに賛成」と風麻も同意する。


「言ってもらえない方が、不安になるってこともあるんだぞ?余計な心配をかけるくらいならってのは、相楽姉が全くあの子のこと知らない状態までの話だ。相楽姉は、もうあの子の気持ちも知ってるし、ここできちんと説明してやった方が、後々こじれずに済むかもしんねぇ……」

「…………」

 爽太は、レジ前の列に並ぶ亜梨明を見つめる。


 亜梨明に心配をかけるのは嫌だ。

 だが、亜梨明との関係を崩すのはもっと嫌だ。


 自分を信じてくれている亜梨明のために、爽太は逢沢との間に起きた出来事を、話すことにした。


「お待たせ~!買ってきた!」

 亜梨明が、絵描き歌の本を緑依風達に見せるようにして、戻ってきた。


「なんじゃこりゃ?絵描き歌……?」

「でも、シンプルで描きやすそうかも!」

「亜梨明……」

 爽太がやや強張った面持ちで呼ぶ。


「この後、家に行っていい?……聞いてもらいたいことがあるんだ」


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