第328話 打ち明ける(前編)
三人が少し遠くへ行ったのを確認すると、爽太はようやく逢沢と向き合う。
だが逢沢は、爽太がやっとこっちを向いてくれたことに気付かず、亜梨明の背をじっと睨んでいた。
「……亜梨明と友達が待ってるから、話は短くね」
爽太が素っ気ない声で言う。
「まだ付き合ってるんだ……」
逢沢は、嫉妬と悲しみが入り混じった顔で、通学鞄を持つ手に力を込めた。
「僕は亜梨明と別れるなんて、返事はしてないはずだけど?」
「……っ」
逢沢は、キュっと唇を噛み締め、泣くのを堪えているようだった。
「返事……なんでしてくれないの?ううん、返事だけじゃない……既読すら付かなくなった……っ。爽太くん……いくらなんでもひどいよ……っ」
「読まなくても内容はわかるからね」
爽太はコートのポケットに手を入れながら、姿勢を崩した。
「『亜梨明と別れろ』『自分と付き合え』……逢沢さんから来るメッセージは、この二つ。それに、この間も言ったはずだ……『どんなに頼まれても無理』って。僕は逢沢さんのことを、君と同じ気持ちで思えない」
「それは……っ!爽太くんがまだ、私のことをよく知らないから……っ!」
逢沢は声を張り上げ、滲み出る涙でまつ毛を濡らした。
「…………」
「――ねぇ、爽太くんお願い。今はまだ、好きじゃなくていいから……相楽さんと別れて、私と付き合って……。私のことを好きになってくれるのは、その後でいいの……」
逢沢が俯きながら、爽太に懇願する。
「付き合ったらきっと、相楽さんよりも私の方が爽太くんのこと好きって、わかってくれると思う……。最初は相楽さんの代わりでもいい……爽太くんに気に入ってもらえるように、私どんなことも頑張るから……。それに、ピアノなら私もできるよ。爽太くんの思い出の曲も、メロディーを聴かせてもらったらすぐに弾けると思うし、だから――!」
「悪いけど――」
爽太が逢沢の言葉を遮る。
「そういう問題じゃない。あの曲は……亜梨明が弾くから意味があるんだ」
「…………」
「逢沢さんを亜梨明の代わりだなんて思えないし、逢沢さんがいくら努力してくれても、僕の気持ちは変わらない……亜梨明とは別れない」
「う……」
「……ごめん、僕のことは諦めて」
爽太は逢沢に背を向け、亜梨明達が待つ本屋へと歩き出す。
「いや……っ!諦めないっ!!」
逢沢が、爽太の背に向かって大きな声で叫ぶ。
「私は学校が離れてからもずっと、爽太くんのことを想い続けてきたのに……!爽太くんのためなら、なんだって頑張れるのにっ!爽太くんを好きな気持ちなら……ぜったい……っ、絶対あの子に負けないっ……じしんが、ある……っ、のに……っ!」
「…………」
逢沢が涙に言葉を詰まらせながら訴えても、爽太は見向きもせず、彼女を置いて去って行く。
「まって……っ、いかないでっ……爽太くん……っ、そう……うっ、うぅ~っ……」
コンクリートの地面に膝をつき、顔を覆って泣き出した逢沢。
それでも爽太は、亜梨明達のいる場所へ足を進め、決して振り返ることは無かった。
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