第23章 愛の大きさ

第319話 初詣


 年が明けて、一月一日――元旦。


 クリスマスはそれぞれ恋人同士で過ごした分、正月はみんなで集まろうと決めていた六人は、朝十時に夏城駅前で待ち合わせをし、この辺りでは一番大きな神社――『秋山神社』へ初詣に向かう。


 駅の改札を通り、ホームで電車が来るのを待っていると、冷たい冬風が吹き渡り、亜梨明が体を震わせて縮こまる。


「うぅ~っ、さむいぃぃぃ~っ!!」

 今日は一段と気温が低く、亜梨明は防寒のためにコートと手袋、マフラー、ニット帽着用しているが、それでも体が冷えてしまうようで、顔色も少々青白い。


「亜梨明、大丈夫?」

 爽太は亜梨明に声を掛けると、なるべく彼女に直接冷たい風が当たらないよう、そっと斜め後ろに回り込んで盾になった。


「う~っ……あったかい季節が待ち遠しいよぉ……」

 去年までのことを思えば、寒さで具合が悪くなることは減ったものの、やっぱり冬は苦手と感じた亜梨明は、春の訪れが恋しくなる。


「確かに、そろそろ寒いのも飽きたよね~」

 緑依風がホームの屋根が無い場所から曇り空を見上げると、「そうか~?」と夏より冬の方が好きな風麻が首を傾ける。


「冬は部活で動いても、汗あんまりかかなくて済むし、ココアとか甘い飲みもん充実してていいじゃん!……あ、そういえば予報じゃ昼から雪が降るって言ってたな!」

「雪っ!?」

 風麻が今朝の天気予報を思い出して口にした途端、渋面をしていた亜梨明の表情がパッと輝きだす。


「雪は好き!ねぇねぇ、積もったら雪遊びしようよ!!」

 亜梨明が急に元気になると、奏音は「切り替え早っ……」と苦笑いし、他の四人は、そんな亜梨明の様子を微笑ましく感じながら笑い声を上げた。


 *


 隣町の秋山駅で下車し、神社に向かって歩き出す六人。


 電車の中も、初詣に向かおうとする人でいっぱいだったが、駅周辺は更に人が増え、ぼんやり歩いていたらはぐれてしまいそうだった。


 普段は周辺の町に比べて人口が少ない秋山町。


 コンビニやちょっとした買い物ができる施設も少なく、古い作りの家や田畑しか見えない道に、たこ焼きや焼きそば、射的やくじ引きなどの屋台が並んでいる。


 ついつい目移りしてしまいそうになるが、それをグッと我慢して参道に辿り着いた六人は、ガラガラと前の方で鳴る鈴の音を耳にしながら、神様に何をお祈りするか話し合っていた。


「ん~、私は『新しい服をいっぱい買ってもらえますように』と、あとは~『推しが今年もいっぱい活躍しますように』かな?」

 星華が言うと、亜梨明は「私は、『もっと健康になれますように』にする!」と、自分の願いを言った。


「おぉ~、いいね!じゃあ、私も亜梨明ちゃんの健康祈っちゃお!奏音は?」

「私は……まぁ、お小遣いがあともう少し多くもらえたらいいな~って」

 特に大きな願いが浮かばない奏音が、適当に思いついたことを言うと、「……ってか、初詣っていうのは、神様に挨拶するためのもんじゃなかったか?」と、風麻が言うので、「えっ、そうなの!?」と亜梨明が驚く。


「――って、緑依風が去年言ってた」

「なぁんだ。緑依風からの受け売りか……」

 星華が両手のひらを空に向けて肩を上下させると、「さらに詳しく言うと、去年の感謝を伝えて、新年がいい年でありますようにって願掛けするためのものだね」と、爽太が付け加えた。


「じゃあ、爽ちゃん達は神様に何もお願いしないの?」

 亜梨明が聞くと、「僕はするよ」と爽太が言った。


「受験勉強、頑張れますように……って」

 爽太がそう言った途端、彼と緑依風以外の四人の表情がピシッと固まる。


「そうだった……!今年から、私達受験生……!!」

 亜梨明があわあわと口を震わせると、星華も「受験生……あの、勉強、勉強ばかりの地獄の毎日が一年も続くという……!」と、頭を抱えた。


「ちょっとぉ~……新年早々、気分下がること言わないでよ日下」

 奏音が両手を組み、ジト目で爽太を睨み上げると、彼は「ゴメンゴメン……」と謝り、前列の人が動き出したのに合わせて、一歩前へと進む。


「……でもでもっ、爽ちゃんとおんなじ学校行くって決めたし!勉強づくしはイヤだけど……頑張る!」

 亜梨明は両手を握り締め、意気込みを語ると、「十円玉一枚増やして、『勉強頑張れますように』も追加しちゃう!」と、財布から小銭を取り出した。


「十円増えるだけで、神様叶えてくれるとは思わないけど……」

 あまり神や仏の存在を信じていない奏音は、奮発なのかケチなのかわからない亜梨明に冷めた声で言うが、亜梨明は「ふ、増えないより可能性あるもん!きっと……!」と、二十円をしっかりと握る。


 爽太は、そんな双子のやり取りに「ふっ……」と小さく声を漏らして笑うと「じゃあ、僕も……」と言って、十円を三枚用意した。


 一枚は、毎年必ず願っていること。


 これからも病気の再発が無く、健康でいられるように。


 二枚目は、受験勉強にしっかり励むことができるように。


 そして三枚目は、亜梨明の願いが叶うように――。


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