第318話 みんなのクリスマス
緑依風や亜梨明達がそれぞれの恋人と過ごしている頃。
星華の家でお泊り会をすることになった奏音は、明日香に用意してもらった料理を持って、待ち合わせ場所のスーパーマーケットへ向かう。
「おっまたせ~!」
待ち合わせ時間ぴったりに到着した星華と合流すると、必要な物を購入するため、店内を巡る二人は、そこでポテトや鴨ローストなどが入ったオードブル、シャンメリーを購入した。
「あとでピザも頼んじゃお!せっかくだから、Mサイズ二つ選んじゃう?」
「そんなに食べ切れんの~?一応、うちのお母さんが色々おかず持たせてくれたよ」
「わぉ!相楽ママナイス!!……へへっ、豪華なクリスマスになりそうだ~!」
星華はそう言って、スキップでもしそうな軽い足取りで歩き出す。
すみれの当直が決まったばかりの頃は、自宅で一人ぼっちのクリスマスになりそうだと、寂しそうにしていた星華。
星華の父の卓も、単身赴任先からたった一日のために戻ってくることはできず、年末と言うこともあって、仕事も大変な時期らしい。
「……まぁ、その代わりにこの間、パパが帰ってきた日に、誕生日とクリスマスパーティーを一緒にやったんだけどさ!ママも、夜勤終わったらランチにいいお店連れてってくれるって言ってくれたし!」
「じゃあ、私はおばさんが帰ってきたら家に戻るね」
イブの日は過ごせなくても、クリスマス当日はきちんと親子の時間があることに、奏音は安心し、それまでの間、星華と思い切り楽しく過ごそうと決めた。
*
途中で木の葉に立ち寄り、予約していた小さなクリスマスケーキを引き取った二人は、料理をお皿に盛りつけ、パーティーの準備をしていく。
リビング内は、先日緑依風の買い物の後に訪れた時と同じく、大きなクリスマスツリー、クリスマス使用のガーランド――の他にも、天井のレールに取り付けられた、ピカピカと光る三日月や星の照明が垂れ下がっており、「この間、こんなの無かったよね……」と、派手好きな空上親子の凝ったインテリアに、奏音は少々驚いていた。
準備が終わると、星華の推しアイドルのライブ映像をBGMに、奏音と星華のクリスマスパーティーが開始される。
宅配ピザは結局一種類のみ注文し、カニグラタン風の物を選んだ。
「よ~し!今日はジャンジャン飲むぞ~っ!!」
グラスに注がれたシャンメリーを、星華が一気に飲み干す。
「ぷは~っ!」
「ちょっと、ちょっと……お酒じゃないんだからさ」
奏音が呆れ笑いすると、「いいじゃん、気分だけでも~♪」と、星華は空っぽになったグラスにシャンメリーを注ぎ足す。
「はぁ~っ、亜梨明ちゃんと緑依風、デート上手くいってるかなぁ?」
「さぁ~?でもまぁ、楽しんでるんじゃない?」
「今度会ったら、二人からどんなデートだったか根掘り葉掘り聞きださないと!」
星華がそう言って、チキンに手を伸ばそうとすると、ピンポーン!とインターホンのベルが鳴った。
「ありゃん、誰だろ?」
星華がモニターを見ると、宅配便の人が荷物を届けに来たらしい。
「わぁ、桜からだ~っ!!」
荷物を受け取った星華が、届け人の名前を見た途端パアッと笑顔になる。
「桜……?あぁ、去年転校した星華の友達か!」
「うん!親友一号なんだ!」
星華からその言葉を聞いた途端、奏音の胸がチクリと痛む。
星華は、奏音の様子に気付かないまま、「何送ってくれたんだろう?」と、段ボールの箱を開け、更にその中に入っていたプレゼントボックスも開けると、「わはっ!すごっ!!なにこれ~っ!!」と言いながら、中身を確認している。
カラフルな箱の中には、大量の一口チョコレートや、お菓子がいっぱい詰まっており、その中を掘り起こすと、星華の好きそうな色のマニキュアや、推しアイドルのアクリルキーホルダー、文房具が入っていた。
更に箱の底を裏返して見てみれば、メッセージカードがくっつけられていて、それを読んだ星華は「相変わらずだな~!」と、サプライズ大好きな桜を懐かしんでいる。
「(今は、私と一緒にいるのに……)」
星華のあまりに嬉しそうな表情に、奏音の心に嫉妬の感情が芽生える。
確かに、星華と桜は小学校時代からずっと仲良しだったと聞いていた。
六年間、星華と共にいた桜に比べて、奏音は一年と八か月。
時間だけで桜と星華の親友ポジを競うなら、敵うはずない。
だが、夏城に来て――中学校で星華と出会って、いつも周囲を盛り上げてくれる彼女の存在に奏音は何度も心が救われていたし、性格も正反対だが、友人の中で何故か一番ウマが合うと思っている。
「(星華にとって、私はどの程度の友達なんだろう……)」
一旦気になりだすと、奏音の頭の中はそのことでいっぱいになってしまい、せっかくのご馳走も、味気なく感じてしまった。
*
食事を終え、片付けをしている最中も、奏音の気持ちは晴れなかった。
奏音は普段通りを装っているつもりだったが、流石の星華もだんだん彼女の様子がおかしいことに気付き始める。
「ねぇ、奏音の推しアイドルっていないの?あ、俳優さんとか。ライブやめてドラマにする?」
「うん」
「この俳優さぁ、ちょっと日下に似てない?骨格とか声とか?」
「うん……」
気の無い返事をする奏音に、星華は眉をひそめ、別の質問を考える。
「……そういえば、亜梨明ちゃんと日下は何時からデートなの?」
「……うん」
「奏音、楽しくないの……?」
「えっ!?」
星華に顔を覗き込まれ、ようやく我に返った奏音は、「そんなことないよ!楽しい、楽しい!」と作り笑いをするが、「嘘だね!」と星華は怒った顔になり、お皿を拭いていたふきんをキッチン台に置き、腰に手を当てる。
「さっきからムスッとした顔してたし、私の話ぜーんぜん聞いてないじゃん!!」
「聞いてたよ!返事してたじゃない!」
「じゃあなんで、『亜梨明ちゃんと日下は何時からデートなの?』の質問に『うん』なんて返事するのさ!会話成り立ってないし!」
「あ……」
星華に指摘されると、奏音はその通りだと気付き反省した。
「……私といるの嫌だったら、泊まらなくていいよ」
「ごめん……嫌じゃないの……」
奏音が謝ると、星華は口を尖らせたまま黙っている。
「――だって、星華が桜のこと『親友一号』なんて言うから……。今日は私と星華で遊んでるのに、桜のプレゼントに喜んだり、桜の思い出話するし……桜に比べたら、私って友達として、どのくらい下なんだろうって思っちゃって……」
奏音が白状すると、「はぁっ!?なにそれ!?」と、星華が声を荒げる。
「そりゃあ、桜は初めて特別に感じた子だし、『親友一号』なのは当たり前だよ!だって、その頃は奏音達と出会ってないもん!」
やっぱりそうだよね……と、奏音が肩を落とす。
「――でもさ、今一緒にいて一番楽しいのは奏音だよ!」
「え?」
「桜が転校して、しばらくはすごく寂しかったけど……奏音が変に気を使い過ぎないで、いつも通りに接してくれたこと、私はすっごく感謝してたのに!!」
「そ、そうなの……?」
「そうだよっ!!」
星華が顔を赤くしたまま、叫ぶように肯定する。
「それに、奏音こそ……!」
「えっ?」
「私……中学に入ったら、誰でもいいからすぐに彼氏作るつもりだったのに、奏音といたら、まだまだ友達と遊んでいたいって、恋愛モードに全然なれなくなっちゃったのに……最近は、土日になると加藤とどっか遊びに行くようになって、私の誘い断るようになったじゃん!」
「あ、あれは……!遊びに行ってるんじゃなくて、カウンセリングっていうか……そのっ、詳しく言えないけど……別に加藤とはそういう雰囲気じゃないし、私だって、彼氏よりもまだ星華と遊んでたいし!!」
奏音が言い返すと、星華がギッと彼女を睨み付け、奏音も負けじと睨み返す――が。
「……っぷ、くくくくっ!」
「……は、あはははっ……!」
睨み合っているうちに、だんだんお互いの怒った顔がおかしくなってきた二人は、怒った表情を崩し、笑い始めた。
「あ~もう、やめたやめた!せっかくのクリスマスなのに、ラブラブイチャイチャできないどころか、ケンカなんてして台無しにしたくないもん!」
星華が両手を上げて言うと、「ほ~んと!やめよやめよ!」と、奏音も肩の力を抜いた。
*
二人はその後、一緒にお風呂に入り、深夜までテレビゲームで遊んだ後、星華のベッドに潜って、緑依風や亜梨明、風麻や爽太の話をした。
他の四人の前ではあまり話せないことや、これまで話したことの無い話題。
日付が変わってからも、二人はたくさん語り尽くした。
眠くなって来た頃、星華は奏音に背中を向けながら「私さ〜」と、ぼんやりした声で話を始めた。
「一人っ子に不満あまり無かったけど、奏音と亜梨明ちゃんに出会ってから、いいなぁってすごく思うようになってさ〜、奏音みたいな妹かお姉ちゃんだったら、毎日楽しいのかなぁって思うんだよね……」
「私は……星華と
奏音が言うと、「えぇ~っ、なんで~?」と、星華が残念そうに奏音の方を向く。
「だって、友達じゃないと話せないことが話せなくなっちゃうもん。それに、今以上に自分の嫌な部分だっていっぱい知られちゃうし……。だったら私は、星華とは友達で親友のままがいいな。この関係が一番気が楽だもん」
奏音が理由を説明すると、「そっか~。じゃあ、友達でいいや」と星華は納得したようだ。
恋人と過ごすクリスマス。
家族と過ごすクリスマス。
友達同士で過ごすクリスマスも、とても素敵で楽しい夜だった。
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