第252話 伝えなきゃ(後編)
部活動も終わりに近付いた頃。
サーブ練習をしていると、一年生で、チームで唯一のリベロの
「ん、お前緑依風のこと知ってんのか?」
「もちろん!綺麗な人ですよね~!学校で話したことは無いですけど、木の葉にケーキ買いに行った時に対応してくれました!……でも、なんであんな所に?」
「あぁ、ちょっと色々あってな……。俺の部活終わるまで待ってもらってるんだ」
「もしかして……坂下先輩って、松山先輩と付き合ってるんですか!?」
渡瀬は、「くぅ~っ、羨ましいっす!」と、言いながら拳を握り締め、羨望の眼差しを風麻に向ける。
「付き合ってない……!幼馴染で家が隣同士だから、一緒に帰るってだけだ……」
風麻がそう説明し、一人盛り上がる渡瀬の誤解を解いていると、そんな二人のやり取りを通りすがりに聞いた爽太が、ひょこっと後ろから顔を出し、「まぁ、もうすぐ付き合う予定だけどね!」とにこやかに言った。
「おいっ!」
余計なことを言うなと、風麻が顔を赤くして怒ると、爽太は反省するどころか軽やかな笑い声を上げながら「そこは否定しないんだ?」とからかい、佐野達のいる方へと逃げていった。
「……ったく、そろそろダウンすっぞー!ボールカゴに入れたらすぐバディー組めよ!」
風麻は、まだ練習を続ける部員に指示を出すと、二階で本を広げている緑依風を見つめる。
「(もうすぐ……か)」
きっと、その“もうすぐ”がなかなか訪れないのは、未だ決断できない自分のせいだ……と、短くため息をつく。
緑依風が大切だから、緑依風が大事だから――。
そう思えば思うほどに、答えを決めるのが怖くなる。
*
整理運動を終えると、部員達は手分けして掃除や後片付けを始めていき、風麻は爽太と共に、ポールからネットを取り外していた。
「お前さ~、あんま一年に変なこと吹き込むなよ……」
風麻が言うと、爽太は相変わらず面白がるようにクスクスと笑っている。
「風麻は松山さんの王子様だよね!」
「王子ぃ~っ!?」
爽太に言われた途端、風麻がギョッと鳥肌が立ちそうな思いで声を張り上げる。
「どこがだよっ!!王子様ってのは、お前の方だろ!俺はそういうガラじゃない……」
風麻が歯の奥をむずむずとさせながら否定すると、「じゃあ、ナイトかな?」と爽太は違う例えを述べた。
「一緒に帰る理由……いざとなったら、松山さんのことを守れるように待たせてるんでしょ?」
「まぁ……そうなんだけどさ」
取り外したネットを畳み終えた風麻は、プラスチックの箱にそれをしまい、ポールを持ち上げた爽太と一緒に、体育倉庫へと運ぶ。
「相手がどんなやつか知らねーし、俺は武道なんか習ったこともねぇけど……俺が見てないところで緑依風に“何かあったら”なんてのは、嫌だからな……」
爽太は、そんな風麻の言葉を聞いて、小さく微笑みながらポールを台の上に置くと、倉庫内に自分達以外の人間がいないことを確認して、「――ところで、松山さんの写真のことなんだけど……」と、先程とは打って変わり、深刻な面持ちで口を開く。
「ちょっと引っかかることがあるんだ……」
「引っかかること?」
風麻が声を潜めながら聞くと、爽太は静かに頷き、辺りを気にしながら再び話を続ける。
「犯人はもしかしたら、松山さんに怨恨の念がある人じゃないかもしれない」
「それ、どういうことだ?」
「なんとなくだけど……犯人は、松山さんに興味を惹かせたくてこんなことをしてる気がするんだ」
顎元に手を添え、考え込むような仕草で答える爽太に、風麻は「どうしてそう思う……?」と、その理由を尋ねた。
「もし仮に、松山さんに恨みや妬みがある人物なら、写真だけを入れずに、中傷するような手紙も添えて入れるんじゃないかなって……」
「あ……!」
確かに、緑依風の靴箱には彼女を撮影した写真のみが投入されており、「死ね」や「殺す」などといった、危害を加える予告の手紙などは無かった――と、風麻は爽太の予想に納得する。
「松山さんに恨みではなく、好意を持っているようなやつが写真を入れているとすれば、今度は風麻が狙われる可能性もある……。帰り道は君も気を付けてくれ……」
風麻は、自分の身の危険を心配してくれる爽太に、「わかった」と頷くと、「ありがとな……」と礼を言って、体育倉庫を出た。
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