第250話 いったい誰が?
爽太の提案で、職員室にいる梅原先生の元へ向かった緑依風達。
緑依風は、靴箱に入れられていた写真のこと、昨日の下校時に誰かに監視されているような気配を感じたことを報告し、他の生徒に知られて大ごとにされたくないことも伝えると、梅原先生は、まずは二年の先生のみでこの情報共有し、調査すると約束してくれた。
職員室を出た後も、風麻や爽太達はショックを受けている緑依風を気遣ってくれた。
「あんまり気を落とさないで……って言いたいけど、無理だよね……」
普段はおちゃらけた言動の多い星華だが、今は複雑そうな顔をして、緑依風を元気付ける言葉を探している。
「でも、星華の言うことも一理あるかも……。緑依風を嫌な気持ちにさせたいから、こうしてるんだろうし……。大丈夫、きっと先生達がすぐに犯人を見つけてくれるよ!」
「うん、ありがとう奏音……。みんなも……心配かけてごめん」
緑依風が四人に謝ると、皆それぞれ、緑依風が気に病む必要は無いといった内容の言葉をかけてくれた。
だが、そう言ってもらっても、モヤモヤした不安は晴れず、風麻以外の友人と別れた後も、緑依風は嫌がらせをした犯人について考えていた。
犯人は、どうしてこんなことをしたのだろう。
されるような原因を、自分はいつの間に作ってしまったのだろう。
人に恨まれるようなことをした覚えは無いが、自分が良かれと思う行為が、その人にはとても不快なことだったのだろうか。
「(どうしよう……私、もしかしたら無意識に誰かのこと傷付けてたのかな……)」
犯人についての思考が、だんだんと自分を責める気持ちに変わり始めた緑依風は、身に覚えのないことへの罪悪感に苛まれていく。
そんな緑依風の性格を知り尽くしている風麻は、隣で俯き沈黙する横顔を見ると、ふーっ……と鼻から息を吐き、「お前……今、自分が悪いことをしたんじゃないかって考えてるだろ」と、呆れた口調で言った。
緑依風は、風麻に心を読まれていたことにハッと驚き、顔を上げたが、また暗い顔に戻ると「だって……」と言いながらしゅんと肩を落とす。
「他にこうされる原因が思い当たらないんだもん……。でも、もしそうだとしたら……どうやったら許してもらえるかな……」
「そんなの、ただ面白がってやってるやつかもしれないだろ?何もわからないうちから、お前が悪く感じる必要はないし、仮にそうだったとしても、こんなのやっていいわけじゃない」
緑依風の考えが合っていたとするなら、陰湿なことなどせずに、最初から正々堂々と言えばいい。
風麻はそう思いながら、まだ見ぬ犯人へ怒りの念を燃やした。
緑依風は未だに不安を隠し切れない表情をしており、時折チラリと背後を気にするように歩いている。
風麻も周囲に怪しい人物がいないか見渡してみるが、今この歩道を歩いているのは自分達のみ――もしかすると、今日は緑依風が一人ではないために、尾行を中止している可能性もある。
ということは、彼女が一人になった時は――?
明日になれば風麻は部活で、緑依風は星華と途中まで一緒に下校するとしても、そこから先は一人だ。
盗撮だけじゃなく、脅迫や暴行など、犯人が彼女に怪我をするような危害を加える危険性も無くはない。
「……緑依風、明日から俺が部活の日は、終わるまで待ってろ」
「え?」
「一人で帰るな」
「でもっ……!」
「部活休めたらいいけど俺キャプテンだし、さすがに解決するまで休み続けるわけには行かないからな……」
「でも、そんなの風麻に気を使わせちゃうし……星華と別れた後、走って帰れば――!」
緑依風は、これ以上迷惑を掛けたくないと思い、断ろうとするが、「一人で帰られる方が、心配で部活に集中できねぇよ」と風麻に言われると、俯くように静かに頷く。
「……ごめんね、風麻」
緑依風が下を向いたまま謝ると、風麻は「気にすんな、半分は俺のワガママだ」と彼女がこれ以上心を痛めぬよう、明るめの声調で言った。
「帰る時間は少し遅くなるけど、一人より安全だろ……。守ってやるから、あんま落ち込むな」
そう言って、風麻が緑依風の背中をポンッと軽く叩き、安心させるように笑みを浮かべてみると、さっきまで青白く沈んだ表情をしていた緑依風の顔が、急にぽわっと紅潮し、途端に自分の言った言葉に恥ずかしくなった風麻も、ポッと熱くなる。
「ま、まぁ……そういうことだからっ!……学校でも、あんまり一人で出歩くなよ」
照れくさい気持ちに我慢できず、風麻が顔を逸らしながら忠告すると、緑依風は「ふふっ」と、嬉しそうに笑って、「うん、ありがと風麻……!」と、彼の優しさに感謝した。
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