第188話 特別なプレゼント
中間テストを間近に控えた朝。
奏音は、廊下に緑依風、風麻、爽太、星華を集めて、亜梨明の転院の日が決まったことを報告した。
「いつになったんだ?」と、風麻が聞くと、「六月六日。ベッドの空きがなかなか無くて、予定より遅くなったけど、この日には空きそうだって」と、奏音が言った。
「東京じゃ、なかなかお見舞いに行けないね……」
星華はしゅんとなり、寂しそうに俯く。
「そうだね。会いに行けない距離じゃないけど、今みたいにしょっちゅうは難しいかも……」
緑依風も残念そうに眉を下げると、「それで……本題なんだけどね……」と、奏音が後ろ手に隠し持っていた、可愛くデコレーションされた黄色い封筒を四人に見せた。
「六月十三日って、私と亜梨明の誕生日でしょ?ちょっと早いけど、三日の夜に数時間だけ外出許可をもらって、我が家で誕生パーティーを開こうと思ってるんだけど……来てくれる?」
奏音は、招待状の入った封筒で下半分の顔を隠しながら、チラッと上目遣いをして友人の返答を待つ。
「行くー!」
「もちろん行くね!」
「行かない理由がないって!」
「絶対行くよ!」
全員が一斉に答えたので、誰が何を言ってるのかわからなかった奏音だが、気持ちは同じだということがわかると、「ありがと!」と嬉しそうに招待状を渡した。
「ただ……亜梨明の体調次第で中止になる可能性もあるから、それだけ知っておいてね……」
奏音から招待状を受け取った四人は、亜梨明の容態が安定し、パーティーが無事開催されることを祈った。
「パーティーは庭でバーベキューやるんだって。晶子と立花も誘うんだ!……それから、緑依風……申し訳ないですが……」
「バースデーケーキの予約?」
「当日、六号のケーキを二つ予約させてください!」
奏音が両手を合わせて緑依風に頼むと、「もちろん喜んで!」と緑依風はにっこりしながら頷いた。
「どのケーキにするか決まってたら教えて?お父さんに伝えとく。亜梨明ちゃん、パーティーまでにもっと良くなってるといいね!」
「プレゼントどうすっかなぁ……」
プレゼント選びが苦手な風麻は顎に手を当てて悩んだ。
「あ、そんなに気を使わないで……。来てくれるだけで充分なんだから」
「そういうわけにはいかないだろ。お前と相楽姉の大事な日なんだからな」
「ありがとう!そんなに高いのいらないからね!」
奏音がふざけて涙を拭くふりをしながら手のひらを出すと、「言われなくても買えねぇーよ!」と、風麻はその手をペシッと軽く叩いた。
*
「……で、双子のプレゼントどうする?」
休み時間、奏音以外のメンバーを集めた星華が、話を切り出す。
「う~ん……亜梨明ちゃんは多分、奏音とお揃いの物が欲しいよね?」
緑依風が言うと、「でも、お揃いで二人が使いそうなものって去年あげ尽くした感じがしない?」と、星華が首を傾けた。
「それなら、みんなでお金出し合ってちょっと良い物贈ろうぜ!」
「それいい!!」
風麻の提案に、星華はパチンと手を鳴らして賛成した。
「確かに、これなら誰かと被ったりもしないし、一人一人じゃ買いづらいものにも手が届くかも!よし、立花と晶子にも話しておこう!」
緑依風も風麻の案を受け入れ、爽太も頷いて賛意を示す。
「こほん。……と・こ・ろ・で~!!」
星華がわざとらしく咳払いをしながら、爽太の顔を見た。
「日下、亜梨明ちゃんと恋人同士になって、何かプレゼント贈った?」
「え、いや……贈ってないけど?」
爽太はキョトンとした顔で言った。
「日下から個人的に特別なプレゼントもらったらぁ~、亜梨明ちゃんすっごく喜ぶと思うんだけどなぁ~?」
「でも、誕生日プレゼントも買うんだよ?それにお金を出すのは日下なんだから、そこは強制しちゃダメだよ」
中学生のお小遣いで、そんなにたくさん買えるはずがないと、緑依風は星華に指摘する。
「お金ならあるよ。お小遣いもらってもあまり使わないし」
「あるなら買えるじゃん!亜梨明ちゃんに指輪とか買ってあげなよ〜!冬丘に行ったら、千円ちょっとで売ってるやつたくさんあるじゃん!」
「あんたねぇ……」
調子のいい星華に、緑依風は頭を押さえて呆れた。
「お前、持っててもあまり他人に金があるとか言うなよ。狙われるぞ」
風麻も不用心な爽太を注意した。
「……でも、指輪なんてサイズもわからないし、好き同士になったばかりでいきなりそれをプレゼントするのは、気持ちが重くない?」
爽太は照れくさいのか、あまり気乗りしない様子で恥ずかしそうに頬を掻く。
「そんなことないよ。海生と海斗先輩なんて、学校のない日はいつもペアリングつけてるよ」
「そうそう!いっそ、日下の分も一緒に買って、亜梨明ちゃんとお揃いにしちゃったらいいじゃん!」
「それは……ますますハードル高いよ……」
爽太が色白の肌を紅潮させて困り顔になると、星華は「ダメか~」と残念そうに言った。
「日下に指輪なんてはめてもらったら、亜梨明ちゃん、泣いて喜ぶかもって思ったんだけどなぁ~……」
「…………」
「まぁ、指輪じゃなきゃダメってわけじゃないし、日下が嫌なら全然別のものでもいいんじゃない?」
悩み、黙り込んでしまった爽太に緑依風が気遣う言葉を掛けたところで、キーンコーンカーンコーン――と、次の授業を開始するチャイムが鳴り始めた。
「とりあえず、来週までにみんなでプレゼント選びに行こうぜ!……じゃっ、解散!」
風麻の一声で、皆それぞれ自分の所属するクラスへと戻り始める。
星華は、「指輪っ、ゆびわっ!ぜーったい、ゆびわ♪」と歌いながらスキップするように爽太の前を歩いて、一足先に教室の中へと入っていった。
*
授業が始まり、爽太は先生が黒板に書いていく文字をノートに記しながら、亜梨明へのプレゼントを考えていた。
「(指輪……ペアリング……)」
星華の言う通り、亜梨明にそれを贈り物とすれば、彼女はとても喜んでくれるかもしれない。
だが、元々アクセサリーにあまり興味のない爽太にとって、ペアリングなどのそういったものは、両親がそれぞれつけている結婚指輪へのイメージが結びついてしまい、たとえ安価だとしても、そんなたいそれたものをプレゼントしたりお揃いでつけるのは、違和感しかない。
緑依風は別のものでもいいのではと言ってくれたが、他に浮かんだもの。
ブレスレット、髪留め、ネックレスなども、なんだか爽太の中ではしっくりこなくて、購入する気になれなかった。
「(それならやっぱり、亜梨明が一番喜んでくれそうなものがいいよね……。指輪、か……)」
せっかくなら、今度みんなで相楽姉妹の誕生日プレゼントを選びに行く時、どんな指輪にするか協力してもらおう。
パラリと捲ったノートの何も書かれていない真っ白なページに、爽太はまた文字を書き並べていった。
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