第143話 クリスマスパーティー(後編)


 クリスマスケーキも食べ終えた六人――。


 ケーキはホールではなく、一人用にカットされたロールケーキで、メンバー一のケーキ好きな風麻は、「これなら上のチョコプレートの取り合いにならないな」と言い、緑依風は、前日坂下家で行われたクリスマスパーティーで、風麻と次男の秋麻が兄弟で取り合いになった話を呆れた様子で語った。


 次は、このパーティーのメインイベント――お楽しみのプレゼント交換だ。


 割り箸で作られたクジを全員同時に引いて、名前が書いてある人からのプレゼントをもらうというものだったが、緑依風はなんと、自分のプレゼントを当ててしまった。


「あちゃ……誰かと交換してもらったら?」

 星華が提案すると、「私のと交換しよ?」と、風麻のプレゼントを引き当てた亜梨明が交換を申し出た。


「これなら、全員他の人のプレゼントもらえるよね?」

 亜梨明が緑依風とプレゼントを交換しようとすると、突然風麻が「俺、緑依風のプレゼントもらっていいか?」と間に入った。


「え、いいけど……」

 キョトンとした顔で、緑依風はプレゼントをおずおずと風麻に差し出した。


 亜梨明達は思わぬ風麻の申し出に、よかったねと表情で緑依風に語りかけた。


 緑依風本人は、風麻のプレゼントが欲しかったが、それはそれで嬉しく思ったので、何も疑わずに従う。


「ははっ、どうせ風麻のことだから、松山さんのプレゼントはお菓子だと思ったんだろ?」

 爽太が言うと、風麻は「うるせー」と言いながら、ラッピングされた袋のリボンを解いた。


「なんだ……自分で作るのかよ」

 緑依風のプレゼントはお菓子ではあったが、木の葉のクッキーなどではなく、混ぜるだけで簡単に作れる製菓材料のセット二つと、大きめのマグカップだった。


「混ぜて冷やすだけなんだから簡単だよ」

 緑依風はふっと笑いながら、風麻と交換した奏音のプレゼントを開けた。


 奏音が用意したプレゼントは、赤いニット帽だった。


「あ、お弁当箱」

 亜梨明は、淡いブルーの四角いお弁当を微笑みながら見つめた。


「可愛いね!」

「おう、よかったら使ってくれ!」

 亜梨明に振り向き、笑いかけてそう告げる風麻――。


 その横顔を見た瞬間、緑依風はまた、何か引っかかるようなものを感じ、ゴク……と喉を動かし、飲み込んでしまおうとする。


 そんな緑依風の気持ちには誰も気付かず、今度は奏音が爽太からのプレゼントを確認する。

 彼からのプレゼントは、小物入れだった。


 星華は亜梨明からブックカバーをもらい、爽太は星華から小顔ローラーやフェイスパックをもらった。


「あはははっ!これ知ってる!顔にコロコロするやつでしょ?」

「なーんで日下が当てるかなぁ?自分に戻って来るかと思ったのに……」

「図々しいこと考えてるねあんた……」

 奏音が白けた様子で星華を見つめた。


 爽太は面白そうにローラーで顔をマッサージして遊んでいる。


「ちょっとぉ!日下タダでさえ小顔なのに、ますます顔小さくなるよ!?女子より綺麗になろうとしないで~!!」

 星華がイーッと歯を食いしばりながら悔しそうにすると、「じゃあ、空上さん交換する?」と、爽太はマッサージする手を止めて聞いた。


「えっ、いいの?」

「えっ……」

 星華だけでなく、亜梨明もその提案に反応して、思わず声を出す。


 亜梨明が用意したブックカバーは、元々爽太に引き当てて欲しいと思っていたからだ。


「これ不正じゃない?」

 腕を組んだ奏音が不満そうに言うと、「察しなさいおバカ」と、星華は小声で言いながら、奏音の脇腹を肘で突いた。


「そのブックカバー、ちょっといいなって思ってたんだ。空上さんが良ければでいいけど……」

「もちろん、もちろんですともっ!!――はいっ、亜梨明ちゃんが用意したブックカバーは、日下の物でーす!!」

 星華が両手で爽太にブックカバーを手渡すと、「やった!」と、爽太は喜んで受け取り、「大事に使わせてもらうよ!」と、ブックカバーを頭の上にかざしながら、亜梨明に笑顔を向けた。


「うん、使ってね!」

 亜梨明もコクコクと何度も嬉しそうに頷き、彼に自分のプレゼントが渡ったことを喜んでいた。


 *


 ご馳走とケーキを食べ終え、プレゼント交換も終えてしまい、クリスマスらしいことは全てやりつくした六人。


 残りの時間は、前回の星華の誕生日パーティーと同じく、テレビゲームをして遊ぶことになった。


 相楽家には元々コントローラーも、多人数で遊べるソフトもあったので、今回はそれぞれ使い慣れた自分のマイコントローラーを持ち寄り、セッティングして準備を始める。


 今回遊ぶゲームソフトは、様々な作品の代表キャラが集合して戦う対戦型ゲームだ。


 星華以外の五人はこのゲームをよく熟知しており、リビングでは「うわー!」「あ、ちょっと待ってっ!!」「よっしゃーっ!!」と、白熱した声が響き渡る――。


「あ~っ、もう!ヤダヤダ!私ばっか負けっぱなしじゃん!!ルール変えよう!!」

 個人戦を楽しんでいたが、連敗ばかりの星華がチーム戦にしようと言ったので、今度は二組に分かれて対戦することになった。


「――で、誰と組む?」

 爽太が尋ねると、五人は「うーん」と唸り、チーム分けを考える。


 この中で圧倒的に上手いのは風麻で、その次に緑依風、亜梨明、爽太、奏音といった順だ。


 最下位続きで不機嫌になってきた星華の為にも、パワーバランスを考えた構成にしたいと緑依風が考えていると、「相楽姉、俺と組もうぜ!」と、風麻が亜梨明に声を掛けた。


「あ、ずるい!強い人同士で組んだら意味ないじゃん!ジャンケンで決めようよ!」

 星華がブーイングをする隣で「あ、まただ」と、緑依風は思った。


 気のせいか、この間から風麻は亜梨明に声を掛けることが増えた気がする――。

 そんな予感が、緑依風の心に付着して、黒くて嫌なものへと染めていく。


「…………」

 なんとなくその場に居るのが辛くなった緑依風は、そっとリビングを出ていった。


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