立ち止まる余裕

 鼠の雲が雪を散らし、音と混ざり積もらせる。

 住居から漏れる暖かな声と光に、僕と道路が包まれる。

 多忙な日々は嘘だったと、ありもしない錯覚が過ってしまう。

 いやそれは、今歩いている道が見慣れたものだったからなのか。

 彷徨していた足はどこえやら、さっと引き寄せられていく。

 精彩を欠いた家が見え、黒ずんだ壁に破顔した。

 数年ぶりの我が家には、確かな記憶の残り香が。

 扉進んだその時に、奥から母の姿見え。

 ただいま。おかえり。上がりなさい。

「僕はこれからでも歩いていける。」

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