第23話 「咀嚼される意識」

 眠りについていた意識が目を覚ます。

昏い夢の中を彷徨っていたような気がする。

身体は熱っぽく、どうにも怠くて仕方がない。

篝火によって冷たい石壁に映る自分の影が嫌に鬱陶しい。

自分のものであるはずなのに吐き気を覚えるのは、どういうことなのだろう。

―――私が、私ではなくなり始めているからだ。

自問自答をせせら笑うその歪んだ口元には、この身を映し出す炎よりも赤いものが飛び散っている。

目前に転がっているのはいとも容易く折れてしまいそうな細い身体の少年。涙を流しているようにその眼窩から血が溢れ、その口からは残りわずかの生命が声なき声としてだらしなく溢れかえっていた。

「―――足リナイ」

 そう言った口から、身体の中に収まっていたものがすべて吐き出される。

 身体に染み付いた意識が、自分ならざる精神の所業に身震いする。

「ア、アァ……」

 返せ、返せと叫んでいるその意識を、食欲が塗り潰していく。機械仕掛けの人形の錆びついた動きのように不気味な震えが止まらない。

自分でも悍ましいと感じる。

自分こそが醜悪だと感じる。

 震える手はしばらく虚空を彷徨っていたが、暗がりから何かを掴むと、それを自分の足元に引きずり出した。

既に息絶えている子供のあどけない顔は、恐怖に引き攣っていた。

私の影はその眼窩の辺りを舐め回したあと、その青い瞳を貪り食らった。

それを認識しているのは私の感覚だった。だからこそ、その舌に殺されたばかりの生温い体温を感じ、その手で目玉をほじくり出す時の柔らかい独特の感触も感じていた。

それが、私の身体で私の意志ではない意思が行っているのが一番恐ろしい。

「オオオ……!」

 冷たい暗闇の中に響く咆哮。それはまさしく、獣と呼ぶに相応しい―――

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