これはペンですか?
私は英語がわからない。
言語は常に日本語で、海外はおろか外国人とも話したことがない。
すでに高齢者となってしまったが、まだ私にはやり残したことがある。
「えぇ?アメリカ留学がしたいって?」
「んぁあ。そうだよ。」
「ちょっと、お父さんやめてよ笑。もうそんな歳じゃないでしょ。」
「こういうのは歳じゃないんだよ。それに小さい頃からの夢でもあったんだ。」
「へぇー。お父さんの夢ねぇ…。」
あれは私がまだ10歳のころだったか。
私が幼少のころは、まだテレビはさほど家庭に普及していなかった。
カラーテレビがある家があればみんなで集まりプロレス中継に釘付けになったものだ。
遊びといえばべいごまや戦争ごっこをやっていた。その時からすでに外国に憧れを持っていたのかもしれない。だが、一番のきっかけはあの出来事だった。
「たかゆきー、もーういーよー!」
「うーーんー!!じゃあ今から探すねーー!」
夕暮れどきに隠れんぼを行っていた。よく遊んでいた友達のたかゆきは、その時オニをやっていた。
「おい、けんちゃん!こっちこいよ!」
「そっち大丈夫かー!隠れるとこ少なそうだぞー!」
私は友達からけんちゃんと呼ばれていた。本名は吾郎だが、けん玉が得意だったことからけん玉の吾郎ちゃん、そしてけんちゃんと呼ばれるようになった。
「おいここ入って大丈夫か?」
友達のとくぼーに連れられついた場所は廃墟の建物だった。
見た目ではよく分からないが、おそらく診療所だと思う。
「もうたかゆき近くまで来てるから入るしかないよ!」
この頃私たちがやっていた隠れんぼはローカルルールになっており、隠れんぼとはいいながらも、見つからなければ移動していいことになっていた。
「おじゃましまーす。うわっ、クモの巣いっぱいだー!」
「とくぼーもうここ出ようよー。大人に怒られるよー。」
「なーに言ってんだよ。けんちゃんは臆病者だなー。」
確かに当時の私は正直怖いと感じていたが、とくぼーも強がりを言っているとわかっていた。
その時、
ガッシャーン!!!
ガラスの割れるような音がしたあと、声が響いてきた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!」
声は前方から聞こえてきており、正面を見ると、たかゆきがこちらに向かって走ってきていた。
「うわっ!たかゆきに見つかっちゃった!なんでもうわかったんだろぉー。」
「でもなんか変じゃない?」
私がそういい終わる頃には、たかゆきは私のそばを走り去っていった。
彼の走り去っていった方向を見たあと、2人で顔を合わせ、
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!」」
私たちも怖くなり、同じように走っていった。
広場に戻るとすでに他の友達は集まっていた。
「はぁはぁ、みんな、もう、見つかっちゃったの?」
「何言ってんだよ。隠れんぼはもう終わってるよ。」
「え?だって俺らさっき見つかったばっかりだよ?」
「違うんだよ。とくぼーたちがあのお化け屋敷に行ったってことが大人たちにバ
レちゃったから、もう終わりにしろって言われたんだよ。」
あとで知ったのだが、廃墟に入るところを近所のおばあさんに見られていたようだった。
「そうだったんだー。あとでオヤジに怒られちゃうかな?けんちゃんも一緒に謝
ってよー、お願い!」
「うん、いいよ。僕もお父さんに怒られるから。」
「でも、たかゆきは俺たちの後ろにいたんだよなー?なんで前から走ってきたん
だろ?」
「あれ?聞いてないの?実はさー…。」
ここからは聞いた話になるのだが、広場から隠れんぼを始めた後、たかゆきは友達を1人ずつ見つけていたのだが、1人の大人が話しかけてきたとのことだった。
その大人がいうには、他の2人は絶対に見つからないようなところに行ったから、僕が手伝ってあげると言ってきたらしい。
たかゆきはその言葉を信じ、一緒に廃墟の方へ向かったのだが、廃墟の中に入るとその大人は急にたかゆきの手首を押さえ、ロープを持ってきて縛ろうとしてきた。たかゆきはそれに驚き、抵抗した際にガラスを足で蹴って割ってしまい、
それが丁度大人の顔に当たってくれた。その隙をつき、走って逃げてきたのだそう。
「それってどんな人だったの?」
「よく覚えていないけど、外国人だったと思う。押さえつけられてるときにずっと
"いずでぃすあぺん"て言われて怖かったよ。」
たかゆきは微笑みながらそう答えていた。
今思えばとても怖い経験をしたのに笑っていたのは流石たかゆきといったところか。
結局、その犯人は見つからず、この事件はひっそりと鳴りを潜めていた。
「その話は何回か聞いたことあるけど、何でそれが夢になるのよ。」
「いや、それがだな…。実は見たんだよ。」
「見たって何を?」
「犯人だよ。たかゆきが逃げてきた方向の廊下の端からこっちを見ていたんだ。」
「嘘!?なんで言わなかったのよ、その時。」
「だってなー。顔に大きな傷がついてきたから可哀想に思えてな。彼も十分罰を受けただろうし、逃してあげようと思ったんだよ。」
「とんだお人好しよ、それ。それで?」
「私が唯一学んだ英語が、”いずでぃすあぺん”でね、あれ以来、ずっと”これはぺんですか”と言っていると思っていたんだが。」
「うんうん。」
「実は”ぺん”じゃなくて、”ぺいん”といっていたみたいなんだよ。」
「何よそれ。痛いかどうか聞いてたの?」
「たぶんなあ。だからけっこう危ないところだったと思うんだ。それがきっかけ
で英語をしっかり学んでおこうと思っていてね。」
娘は笑って言った。
「今更じゃないの?もうそんな目には合わないわよ、この先。」
「だといいんだがなぁ…。」
「なんでよ?」
「お前の後ろの窓から外国人がこっちを見ているんだよ。」
イカマヨネーズ 吉田健康第一 @don524kayo84
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。イカマヨネーズの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます