第7話
ただでさえ敵対していた甦命美埜と黄金梅の関係は、紅華さんのことがあってから、より一層険悪になっていた。まさに、midnight streetは一触即発の状態であった。
流血は絶えることなく、毎日のように通りを救急車が駆け抜ける。恐れた人々は、家に引きこもり、耳を塞ぎ、毛布を頭から被って、夜をしのいだ。
「近々、全面戦争が始まるぞ」
町のいたるところで、そんな噂が飛び交った。
あなたの元を去ってから、ひと月が経った。
「お前、ちょっと来い」
いつものように外をふらついていると、数人の女に囲まれ、強引に腕を掴まれた。抵抗を試みるもむなしく、木造の建物へと連れ去られる。そして、梅花の文様を模した襖の前に立つ。予想はしていたが、ここが黄金梅の本拠地のようだ。
「トップ。甦命美埜の女を連れてきました」
一人が、襖の向こうに声をかける。
「入りなさい」
声が返ってきたかと思えば、音もなく襖が開いた。
そこにはよく、時代劇に見られる光景が広がっていた。上座に座る人を正面に、左右一列整然と女が頭を垂れていた。私は背中を押し出され、前のめりに躍り出る。上座にいる女と目が合った。
色素の薄い髪は緩くウェーブを描き、顔のパーツのすべてが小さい。髪と同色の瞳はガラス玉のように温度がなく、瞬きをしなければ精巧な人形と見紛うほどの美少女だった。
「貴女が甦命美埜一五代目のお気に入り」
ぷっくりとした唇が開き、言葉が紡がれる。
「おい、トップの質問に答えろ」
女のひとりに背中を小突かれ、自分が呆れたまま目の前の少女に見入っていたことに気付いた。
「えっ、トップ? だって……」
少女は、私も知っている衣服に身を包んでいた。胸元を飾る真紅のスカーフ。ほんの数ヶ月前まで私も着ていた、セーラー服。
黄金梅のトップは、中学生だった。親衛隊長の支那美さんの話では、黄金梅先代の長束は、一八〇センチメートル超えの高身長で、かなり恰幅もよかったという。目の前にいる現トップ、初雁はどう見ても一四〇センチメートル前半。とても長束を倒せるとは思えなかった。
「おい、聞いてるのか?」
再び苛立たし気に小突かれる。
「残念だけど、私はもう甦命美埜の人間じゃないよ。櫻さんのお気に入りでもない。私が勝手に櫻さんに付きまとってただけ。あの人は、一度も私を仲間だと思ってくれたことはなかった」
最後に見たあなたの顔を思い出して、涙腺が緩みそうになる。
「まあいいわ。貴女がお気に入りであろうがなかろうが、甦命美埜にいたという事実が大事なの。試してみる価値はありそう」
初雁は、とくに気に留めた様子もなく、あなたの元へと使いを出した。
紅枝垂を返してほしければ、ひとりで黄金梅の本拠地に来い。
数刻後、あなたはひとりで適地にやってきた。
「……っ、櫻さん、どうして」
「わたしはお前をチームに迎えた。お前がどう思おうと、一度受け入れた奴は全員仲間だ」
そう言うとあなたは、片っ端から敵を倒していく。やがて、傷ひとつ負うこともなく、あなたは初雁の前に立った。
「やるわね」
「……お前が初雁か。ただで済むとは思うなよ」
甦命美埜総長と、黄金梅トップ。ふたりの女の戦いが始まった。
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