第6話
結果的に言えば、甦命美埜の圧勝だった。皆それぞれが強かったが、あなたは一蹴りで五人同時に吹き飛ばしたり、軽く撫でるような動きだけで相手を立てなくさせたり、と尋常ではない規格外さを見せてくれた。
そもそもmidnight streetのレディースは、北の甦命美埜と南の黄金梅で力を二分しており、勢力にもほとんど差はない。
それなのに、なぜ一瞬で片が付いたのか。紅華拉致を決行したのは黄金梅の中の一部隊であり、人数が多いとはいえ甦命美埜の精鋭にかかれば、蹴散らすことなんて造作もなかった。
「初雁が出てきたら、そう簡単にはいかないだろうがな」
初雁。黄金梅のトップだ。一五代目“櫻”が総長に就任したころ、先代の長束を倒して頂点に上り詰めた。有力候補として挙がった黒雲、鴛鴦、紅鶴を再起不能にさせたぐらいだから、実力は相当なものらしい。誰も姿を見たことがないため、確かなことは言えないが……。
「小競り合いくらいはあったが、ここまで派手な動きは今までなかった。きな臭くなってきたな……」
紅華奪還祝いの宴会が開かれる中、あなたは早々に離脱して、満開の桜が描かれた壁を背に座っていた。とぷとぷと前割り焼酎が、黒千代香から美しい唇へと流れ込む。白い喉がこくりと動いた。
「黒千代香で飲む人、初めて見たよ」
私はあなたの右隣に腰を下ろした。
「私にも一口ちょうだい」
「お前が二十歳になったらな」
甦命美埜のメンバーは四割は未成年だ。それでも宴会では成人に混じって酒に煙草にと楽しんでいる。
「お前は駄目だ」
あなたは絶対に許してはくれなかった。夜の町を覗くのは許すが、これ以上こちらに足を踏み入れるのは許さない。そう拒絶されたようで胸がきりきり痛んだ。
「櫻さんは、まだ私のことを仲間とは認めてくれないんだね」
「それは……」
珍しく言いよどむあなたを見て、私の中で何かが閉じていくのを感じた。
「もう、いいよ」
私はすっと立ち上がると、夜の闇に消えた。
気づかなかった。肯定ではない、別の言葉が続くはずだったことも。私の背中を、顔を泣きそうに歪ませながら見ていたことにも……。
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