第2話

 それから当て処もなく、町をふらついた。

 今家に帰れば、間違いなくひどい目に遭う。互いの頭を冷やすためにも、時間が必要に思えた。

 そんな、鬱々とした気分も、夜の町に出てみれば、あっという間に吹き飛んだ。

 酒で顔を真っ赤にした、金曜日のサラリーマン。未だ残暑が厳しいとはいえ、風邪を心配してしまいそうになるくらい、露出の多い煌びやかな夜の蝶。目が合う毎に難癖をつけている、派手な髪色のヤンキー…。生まれてからずっと暮らしてきた場所なのに、昼間とは全く違う顔を見せる妖しい町に、畏れと共に、不思議な高揚を感じる。

 ふと気付けば、人通りの少ない場所に出ていた。先ほどよりもぐっと妖しさが増している。これ以上進んではいけない、と頭では警告音が鳴り響いているのに、足が止まらない。

「誰だお前、見ない顔だな」

 案の定、金髪の男に声をかけられた。大学生ぐらいだろうか。無数に穴の開いた口元からはヤニの臭いが漂ってくる。

「えっと……」

 じりじりと後退りながら口ごもっていると、下がった分、男は近づいてきた。

「ここに来るのは初めてか。だがこんなところに来るくらいだ、どうなるかぐらいは分かるよな」

 下卑た顔して近づいてくる男からの逃げ道を確保しようとして振り向き、すぐに絶望した。

 似たような男たちが後ろからも前からも、私を囲んでいた。

「俺たちがmidnight streetのこと、たっぷり教えてやるよ」

 男の手が私に触れようとしたとき、一陣の風が空を切り裂いた。

「イテッ!」

 誰かが小さく叫んだかと思えば、男が涙目になりながら左手を擦っている。

「何をやっている。逃げるぞ」

 耳元で涼やかな声がしたかと思うと、あなたは私の右手を掴み、走り出していた。

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