006 先輩

「やっぱり気になるわね……」

「検査の……こと……?」

 寮舎に向かう道すがら、セイレーンとゼクティスがそんな会話をしている。

「ええ……。明らかに私の番の時、先生変だったもの」

「確かに、不自然極まりない反応ではあった。加えて、エラーが何とかと言っていたが、この学園の設備でエラーなど普通はないと考えたほうが妥当だろう」

 冷静に分析するタイタン。しかし、おそらく彼らが気づいていないことを俺は指摘した。

「他人事のように分析してるが、君たちも当事者だぞ。フレアとシルフィアも含めてな」

『え?』と声が重なる。

「どういうことだよ。別になんかエラーが出たとか言ってたのはこの次席ちゃんだけだろうが」

「まあ確かにそう見える。でも注意深く見てればわかるが、先生はあの時、ゼクティスの検査を記録していなかった。記録にしなくてもいい事情……あるいはできない事情があるのかはわからんが」

「うーん……結局それが、私たちも部外者じゃないことに何の関係があるの?」

 シルフィアは不思議そうだ。ここまでの話だけじゃ意味は分からないだろう。

「君らの時も、ルアナ先生は記録をしていなかった。表情には出ないようにしていた。まあ、隠しきれてなかったがな」

 気づかなかった、と言わんばかりの顔をする一同。確かにあれは気づかないだろう。

「そしてそれは……俺に関してもそうだ」

「な……」

「よくそんなところまで見てるわね。正直怖いくらい」

「確かに……いわれてみればそうかも」

 俺たち六人に何か異常があるかと言われれば、そんな気はしない。にもかかわらず、ルアナ先生の反応は不自然で、何かを隠しているように見えた。

「この件に関しては後日聞いてみる必要がありそうだな……」

 周囲のクラスメートがガヤガヤと歩いていく中、六人はぬぐえなさを感じていた。

 ――その時だった――

「お前らが新入生か」


 突如かかった声の方を向く。それは俺だけでなく、周囲の5人も、クラスメートもだった。

 いたのは二人の男だった。自分たちと同じような制服を着ているが、胸にある校章の色が違う。おそらく……

「その校章……戦術Sか。ハッ、にしてはずいぶんとレベルの低そうな連中だなぁ?」

「……なにか御用ですか、そんな罵倒を言うためだけに声をかけたのではないでしょう?」

 ゼクティスは男の発言をものともせずに応じた。順当な質問だ。

「わかんねぇの?先輩の威厳ってやつを見せつけてやるんだよ」

 罵倒した挙げ句何をほざくか、

「先輩方への尊敬の念を忘れるつもりはないです。が、あなたのような人を尊敬するつもりはない。お言葉ですが、俺から見たらあんたのがよっぽどレベルが低そうですが?」

「はぁ?舐め腐りやがって……いいだろう、てめえこっちに来い」

 御しやすい連中だな、簡単に挑発に乗る。

 さっきから喋ってるのは片方だけで、もう一方はただ状況を静観している。付き合わされてるだけだろうというのは、彼のつまらなさそうな顔から見て取れる。

「そのコケにしたような態度、すぐに後悔させてやる。魔導模擬戦だ。あんだけ大口たたいて引き下がりはしないよなぁ?」

「……はぁ……」

 ため息をつく付き添いの方の先輩。彼はおそらく話が分かる人だろう。なんとなくわかるものだ。こいつと違って……強い。

 まあ、しばしお待ちを。こっちも頭来てるんでね。俺は短気なんだ。

「いいでしょう。ルールは魔術だけでいいですか?剣も使います?」

「あたりまえだ。ぼこぼこに叩き潰してこそてめえみたいなのには意味がある。いくぜぇ?」

 その腰に下げた模擬剣を取り出す。後輩相手に大人気のない……。どこにでもこういうのはいるんだな。

 ダーカー家の名誉のためにも、俺たちのクラスの名誉のためにも、思い知らせてやろうじゃないか。

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