003 入学式

「それよりも、その本どうしたんですか? 珍しいものだと思いますが……」

「あー、堅苦しいのはいいよ。そういうのは苦手だからさ」

 敬語で話すゼクティスにナイトメアは言う。

 いや実際敬語で同い年と話すってなんかおかしい気がするんだよね。

「えっ、わ、わかりま……わかったわ」

「うん。で、この本だっけ? マナリアに行ったときに手に入ったんだ」

「マナリアに行ったの!?」

 ゼクティスが嬉しそうに言う。なんか喜ばれること言ったか?

「嬉しいです! マナリアは私の故郷なの!」

「そうなのか? ってことは……」

「あ、うん。わたしは魔族マジシャンよ」

 やっぱりか。確かに感じ取れる魔力量マナキャパシティが多いし、源素オリジンも濃さが普通じゃないとは思っていた。

 先に述べた連合王国内の自治区はほとんどが種族ごとに存在しており、マナリアもそのうちの一つで、魔族が多く住んでいる。彼女はそこから遥々やって来たのだろう。俺も似たようなものだが。

「また機会があれば案内するから行きましょうよ!」

「ああ、その時は頼むよ」

 他愛無い会話が流れる。ゼクティスとナイトメアは親睦を深めていった。


 それから10分程して……

「皆さん、みんな席に座って下さい」

 と、二十歳過ぎくらいとおぼしき女性が入ってきた。灰色の髪を持つ可憐な印象の人だった。この学院の教師である証のローブを着ており、胸元にはナイトメア達が着ている制服と同じ紋章。この学院の校章である。

「全員出席していますね。では、改めまして皆さん、入学おめでとうございます。この戦術Sクラスを担当します、ルアナ・ローディアと言います。これからよろしくお願いしますね?」

 ――戦術を担当するようには見えないが……治癒術の講師か?

「それでは入学式がありますので、大講堂の方に移動しましょう」

 まあ追々分かるだろう。とりあえず大講堂とやらに行って入学式を済ます。


 凄まじく広い大講堂に絶句しつつ――むしろ講堂なんていうレベルじゃない――入学式に臨む。校長の祝辞とやらは正直かったるいだけだった。

 その後、入試成績優秀者の紹介があった。そんなこともするのか。

「それでは、新入生のの成績優秀者を発表する。まず、首席入学、戦術Sクラスのナイトメア・ダーカー。過去最高成績に並ぶスコアを取っている。今後も研鑽に励むように。次席は同じくゼクティス・スターライト。僅かに首席には及ばずも素晴らしいスコアである。今後に期待する。そのほかにも……」

 首席スコアだったらしい。出来はあまり良くない気がしていたのだが……。そして彼女が次席だったのか。確かに聡明そうではあったな。

 少し歓喜を覚える。だが面倒臭さが強かったからしばらく無我の境地に至っているただずっとぼけっとしていると、入学式は終わった。


 その後教室に戻り、自己紹介タイムという恒例行事を済ます。名前と顔だけ一致させてあとは何も聞いていなかったが。

 その後敷地が広いから校内案内に行った。興味深い施設はあったが全てにおいてひとつだけ共通点があった。

 ――ちょっと規格外に広すぎやしませんかねえ。あとすごく高価な魔道素材で作られてたけど一体いくらかかったんだ?

そんなことを思いながら校内を歩き回るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る