第11話

ひと月ぶりの我が家に気が緩んだ。もっとしっかり封をしておけば・・・あんな乱暴なやり方で男を送る事はなかったな。もう少し方法があったやろ。話を聞いて、恨みで凝り固まったものをもっと解して、出来れば浄化をしてやる事もできたか。

月明りの中、店のソファに横になりぼんやりしていると、紫竹が酒を持ってやって来た。あぁ・・・こいつにもしんどい思いをさせたなと思う。俺の前に来ると、改めて頭を下げ

「師匠、すいませんでした」

「なんや、お前のせいやないって言うてるやろ」

「奥の手使って、乱暴な事したと思ってるでしょ」

「・・・」

いつの間にかこんな事を考える位になってたか。大きいなったもんや、驚いて声もでんわ。

「すいませんでした。以後気をつけます」

「あぁ・・・解った。謝罪は、受ける。その代わり俺も気を付ける。危ない物は、ちゃんと引き継ぐ。仕入れの話は、ちゃんとする」

こちらも紫竹に頭を下げた。

「頭を下げるのは、止めて下さい。・・・でも、もっと話して下さると助かります・・・」

「ああ、そうやな」

酒を飲みながら、こんな事でも喜んでくれるなら気を付けようと思っていると

「で、仕入れと言えば、確認ですが・・・あの櫛ですが、仕入れは幾らでした。台帳に付けますので、教えて頂けますか」

「えっ、・・・もう、ええやないか。品物もないのやからな」

「いや、これとそれとは違います。損金になりますが、金額をはっきりしておかないと、出張の清算が出来ませんよ」

なんやねん。思った以上に、しっかりしとる。

「・・・五万」

「えっ、五万。柘植ですよね。また、法外な物を・・・ご自分の小遣いで処理して下さい」

「えー紫竹、それこそお前、鬼やん」

紫竹の綺麗な顔が、やっと笑った。



鶯谷道具商店の夜は、こうして今日も何事もなく更けてまいります。

またのお越しをお待ちもうしております。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る