第9話
いつもの買い付けと贔屓筋への挨拶まわりをして、帰る途中に立ち寄った土地で、小さな神社の祭りに出くわした。参道にいくつか屋台が立っていて、その中に古道具を置いている店が目に付いた。冷やかしついでに覗くと、いきなり周囲がぐにゃりと歪んで辺りの様子が変わった。
そこは峠道と思える場所。突っ立っていると、その横を必死の形相で走ってくる男がいる。そしてその後を大勢の男達が追いかけてくる。
ああ、ここは普通の場ではないなと、白鶴は思った。何時もの事、強い力に惹かれて何処からか近寄ってくる者達がいる。時に悪さを仕掛けてくる者もいるが、たいていの所そんな者など相手にはならない。それでもこちらの気分次第でときに相手をしてやる。今日は、いい出物にであって気分も良いので、茶番に付き合ってやろうと黙って眺めていることにした。
逃げていた男は、直ぐに追手に取り囲まれた。
「・・・お前の仕業と、もうばれておる。神妙にせい」
「俺は、俺は・・・」
誰も男の話など聞かぬ、各々が手に持つこん棒で男の体を打ち据える。みるみる男のあちらこちらが腫れて破れ、血が滲み、手足は奇妙にねじ曲がっている。白鶴は、黙ってそれを見ていた。全ては終わったこと今更何をしても仕方のない事・・・そのうち、男の一人が叫んだ
「待て待て、このまま死なせるな。庄屋様の家に連れて行くぞ」
血まみれの男を引きずるように引っ立てて行く。そこでまた周囲の様子が変わる。大きな屋敷の庭に男はいた。もはや、そこに座る事も出来ない状態で、引き据えられている。それを庭に面した大きな座敷の奥にいる男と女が、冷やかな目で眺めていた。庭に控えていた者が男に声を掛けた。
「ほれ、庄屋様に正直に言うてみろ。あの櫛はどうした」
「・・・」
「はぁ、何を言うてる。聞こえんぞ」
二人のやり取りを見ていた女が、急に大きな声で叫んだ。
「殺して、早う・・・殺して」
その場が、一気に凍り付いた。どうしたものかと庭に控える男達が思っていると、座敷の男がゆっくり首を縦にした。すると引き据えられた男を目掛けて大きな屶が振り下ろされた。断末魔の叫び声や飛び散る血にも動じる事なく座敷の男が口を開く。
「この事をよう覚えておけ、柘植の木は、たとえ木っ端の一つまで全部が全部この村の物。掠めて、己が物にした時は・・・よう解ったな」
庭に控えていた村の男達は皆、頭を下げて頷いた。横に控える女だけが、うっとりと男の事を眺めている。そして、その髪には、見事な細工の柘植の櫛がさしてあった。
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