第4話
紫竹は、白鶴が話している間に鞄の中から手の甲に赤い篭目の印がある白い手袋をだし、それを嵌めて後ろに控えていた。二人は、当然のように一緒に開け放たれた扉の内へすっと身を滑り込ませる。同時に彼らの後ろで扉が大きな音を立てて閉められた。扉の隙間から入り込んでいた光は途絶え照明の消えた暗闇の中を、夜目のきく二人は、何事もないように進んで行く。
「やっぱり、ここにはもう居らんな。こんなゴミみたいなもんは、早よ片付けるか」
白鶴は、早々に九字をきろうと印を結びかけて手を止めると、紫竹の方を振り返る。
「・・・紫竹、やってみ」
紫竹は、一瞬嬉しくて顔が緩むのがわかったが、唇を嚙みしめて気合を入れた。
昔は、よく白鶴の仕入れの旅について歩いた。そこで、白鶴から初歩の印の結び方や星見や暦の見方、料理や洗濯、生活に必要な事も教えてもらった。それがここ何年は、店番をしろと言われて連れて行ってもらえない。帰って来てもちゃんと相手にしてくれないので、こんなふうに言ってもらえると嬉しくて仕方がない。
印を結んで九字をきると、いっきに周囲が明るく変わっていった。
「ほぉ、腕上げたんやないか。ますます恰好ええなぁ」
そんな声が聞こえて、一瞬気持ちが揺れた。あと少しで四方隅々光で覆われるところだったが、隅まで届く前に紫竹の気が途絶えた。
「っ・・・」
「あー、あかんかったか」
白鶴は、ニヤリと笑うと印を結んで気をとばした。もはや何処にも影はない。紫竹は不満げに白鶴を見る。
「・・・あぁ、もう、話しかけないで下さい」
「話してなんかないで、ただ、カッコええなと思っただけやで」
にやにや笑って白鶴が答えると、紫竹は乱暴に手袋を脱いだ。
「外にでましょう。で、この後はどうするんですか」
白鶴は薄っすら笑って、扉を大きく開けた。外の光がスタジオの中に差し込んでくると、逆光の中の黒い影が声を掛けてきた。
「ああ、お疲れ。相変わらず仕事が早い。もう皆、呼んでいいかな」
梶山が、携帯を持ちながらそう言っている。
「かまへんよ。それより今日、家に物を取りに来た子は何処にいるんや」
「ああ、こっちに集合かけて・・・う~ん、み、宮田は、今どこにいる?・・・」
話がおわった梶山が白鶴に、話しかけようとすると、ADの山本が走って来た。
「お疲れ様です。すいません、宮田なんですが、気分が悪いって・・・見た感じも何かガタガタ震えてて、あんまり様子がおかしかったんで仮眠室にいかせたんです。が・・・」
「どうした?」
「今、様子見に行ったんですが、いないんです。仮眠室もさっきのスタジオみたいになってて・・・どうしましょう。なんかあったんすかね」
梶山は、その話を聞きながら白鶴の顔を見た。
「あぁ、何かに手を出したようやな」
「・・・申し訳ない。宮田を何とか助けてもらえるかな。あっ、それと仮眠室の方も・・・」
「取り敢えず、仮眠室の方を片付けるから宮田君の住所と・・・彼女がおる、いや、おったかも知れんはずやからその子の住所も調べて置いて」
紫竹は、口を挟もうとして口をつぐんで、俯いていた。仮眠室の場所を確認して、二人で向かう。白鶴より一歩遅れて、声をかける。
「すいません。俺のミスです。でも、あの人・・・何も触れてませんでした」
「う~ん、まぁ、俺のせいでもあるんや。が、その話は、後や。とりあえず仮
眠室を片付けよ。気になる事があるしな」
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