第3話
中古の軽トラに乗り込んで指定された湾岸の撮影所に向かう途中、眠そうな
白鶴が窓の外を眺めながら紫竹に訊く。
「紫竹、今日 梶さん処の若いのに何を渡したんや」
「あぁ、時計です。懐中時計、九州の旧家の蔵の始末を頼まれた時に出てきた」
「懐中時計・・・」
「覚えてませんか。・・・PCに画像があります」
白鶴は、黙ったまま紫竹の鞄からPCを取り出すと
「パスは、何や」
「いい加減、覚えて下さいよ。7989・・・」
「おっ、紫竹と白鶴か、可愛い事するやないか。・・・あかんで」
「最後までちゃんと聞いて下さい。79890210」
「・・・」
「在庫のファイルを開いて、今日の所・・・」
「ああ、これか。洗いは、紫竹がやった物やな」
うちの道具は、いわゆる骨董品。古い物には、もちろん汚や染みがある。ひびや欠けた物は、金で接いだり修繕したり。物を生かして、貸したり売ったりするのが仕事。その中で、他がやらない事があるとすれば、曰く因縁がべったりついた人の恨みや嫉みで汚れた物を綺麗さっぱり清めて洗ってしまう事、そこの所が、普通と違う道具屋。洗いを失敗する事は、色んな意味で命取りになる。
「洗いがちゃんと済んでなかったと・・・」
「そんな事は、ないやろ。それほどややこしい物やなかったはずや」
そうだ。未だに命を持って行かれそうな程、重い物を任された事はない。
「・・・梶山さんの言う事は、信じていいものなんですか。うちの領分じゃあないかも知れませんよ」
「梶やんは、俺らと違うが・・・勘がええ。俺らより上かもしれんで、紫竹もわかっとるやろ」
「・・・」
渋滞に捕まることなく湾岸の撮影所に着くと、予想通り入り口で止められた。中古の軽トラに乗っているのが黒の和装とスーツの男これを止めない警備がいるなら、それは警備ではないなと紫竹は思いながら丁寧に取次を頼んだ。
「制作の梶山プロデューサーに鶯谷道具商店の赤目が参りましたとお伝え下さい」
「・・・梶山プロデューサーね。ちょっと待ってて」
警備が中に連絡を取ろうとした時、梶山が走って来た。
「おっ、来たな待ってたよ。早く来てくれ」
小太りでいつもは動きが遅い男が、走って来た。よほどに切羽詰まった状態なのだろう。言われるままに、ついて行くと一番大きなスタジオの前に連れて来られた。
「ここだ。今は、演者もスタッフも外に出してるんで、誰もいない。出来れば俺も中に入りたくないんで・・・よろしく」
梶山が、話ながら扉を開けると、そこは薄暗く重い霊気で覆われていた。
「少し遅れて来てみたらこんな感じになってて・・・おかしいだろ。そっちからレンタルした時計が原因じゃないの?」
「で、すぐ連絡して来たんか。時計が原因やないはずやが、そのブツは今どこにある」
「ああ、中に置いてきた。あんたが言うなら他が原因か・・・で、ここは何とかなるかな?」
「う~ん、本体はないようやしな。早よすむ。そこ閉めて待っといて・・・
紫竹、始めよか」
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