第2話

宮田が出て行くのを見届けてから紫竹は、抽斗にしまった物を机の上に並べた。

男の名は、辻村紫竹(つじむらしちく)。鶯谷道具商店の使用人で、二十歳そこそこの若さで店の一切を仕切っている。机の上に並べた物を一つ一つ丁寧に確認して、PCに品名を打ち込んで行く。打ち終わると、深く息を吐いた。

「今回は、ややこしい物はないか」

安心したような残念なような声を漏らしていると、奥に続くドアが開いた。

「紫竹、腹が減った」

大きな声の大柄な男。白髪の長い髪に赤い襦袢一枚を羽織って、そう言いながら窓際のソファに座った。

この男は、赤目白鶴(あかめはっかく)。この店の主で、紫竹の雇い主にして、師匠。店の事は全て紫竹に任せきっていて、仕入れと言いながら自分は日本全国を歩き回っている。そしてたまに帰って来ては、持ち帰った品物の手入れをする。

「そんな恰好でウロウロしないで下さい。冷蔵庫に作り置きのハンバーグがあったでしょうから温めて食べて下さい。お好きなペリカンのパンも買ってありますから」

白鶴は、不満げに紫竹を見て

「一ヶ月ぶりに帰って来たのに、随分やないか。少し優しくしてやろうって気にならんかな」

「これでも十分、優しくしております」

「ふーん・・・」

互いににらみ合った状態で、机の上の電話が鳴った。紫竹が、白鶴から視線を外して電話を取った。

「はい、鶯谷道具商店でございます」

「ああ、辻村君。梶山です」

「梶山様、お世話になっております。品物は、使いの方にお渡ししましたが、何か問題でもございましたか」

紫竹が電話にでていると、背後に白鶴が回り込んで一緒に電話を聞いている。

「ああ、確かに受け取っているようだ。それで・・・今、現場に入ったんだが・・・それが原因かな。何かおかしいんだ。ほら、君らが言う霊障ってやつかな・・・取り敢えず来てくれ」

紫竹は、白鶴の方を見て互いに頷く。

「分かりました。直ぐに参ります」

電話を切ると、白鶴は身支度をする為に部屋をでて行った。紫竹は、鞄にPCを詰め込むと車のキーを持って、白鶴を待つ。いつもの事で、仕事着の赤い篭目紋のある黒の着流しに雪駄を履いて、白い長髪を一つに纏めた白鶴が戻って来る。さっきまでの様子に比べて、こうすると男っぷりが倍は上がると紫竹は思っている。それとその様子を近所の小学生がお侍さんとあだ名を付けていることも知っている。

「用意は、よろしいですか」

「ああ、出掛けよう」

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