第12話 刑事の性
――もう何も言うまい。
佐藤は小熊に気が付くと、そこが定位置だと言わんばかりに間仕切りカーテンの前に立った。その行動だけで、食堂に居る全員が小熊に視線を向ける。
「再三再四すみませんが、次は木村さんについてです。何か情報はありますか? 特に、同じ大学で働いていた小畑さん」
わかりやすく猜疑の目を向けている小熊本人も、視線を向けられている小畑も気にする様子が無い。
「木村教授のことなら大抵答えられますよ。具体的には何を知りたいんですか?」
順当な邪推だということは誰にだってわかることだ。
大学の教授職というのは年功序列な面がある。にも拘らず研究者という肩書には定年が無い。故に同じ分野の人間が引退もせずにその場で留まっていると、下に居る者が昇級できないのだ。そして、何が厄介かといえば教授と准教授の間には給与的な差が生じているということ。大した研究もせず何の成果もあげずに、ただその場に居座っている教授を、不真面目な生徒なら何とも思わないだろう。むしろ楽な講義として人気かもしれない。だが、真面目な生徒や同業者からすれば迷惑極まりない。
どんなドミノでも障害物があれば前には進めないのだから。
その障害物が老害ならば――対処は思いの外、簡単なのかもしれない。
「知りたいこと、ですか。でしたら、お二人の馴れ初めでも教えてもらえますか?」
動機はあるが証拠が無い。というのが、わかりやすい状況ではある。
しかし、動機が不明で証拠もない。が、今の現状である。
だから下手に出る。ひたすらに下から証言を引き出していく。下から問うて、下から訊いて、下から求める。そうしていくうちに相手は自分の足元を掬われるほどの情報を差し出してくれるのだ。
何も上から威圧的に証言を引き出すのが警察のやり方というわけではない。その辺り、小熊は使い分けることが出来る、
過去に明石が訊いたことがあった。
「犯人を逮捕するために、その犯人の靴を舐められる?」
そうしたら、小熊は涼しい顔で答えたのだ。
「当然、舐めるわよ。それで手錠を掛けたら――犯人が五体満足で居られる保証はできないけれど」
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