第5話 宿泊者
十九時丁度に明石は目を覚ました。
中折れ帽を被り直し、部屋の中を見回すが小熊の姿は無い。テーブルの上には六号室と七号室のカードキーが一枚ずつ置かれていた。おそらくは用心のためそれぞれの部屋の鍵を持っておこうということだろう。
立ち上がりジャケットを羽織ると、バスルームまで足を進めて洗面所の鏡で自分の姿を確認した。
「うん。完璧だね」
ポーズを取りつつ自画自賛したところでインターホンの音が鳴り響いた。
ドアを開けたところに居たのは予想通り小熊だった。服装が変わっていたわけではないが 唯一サングラスだけは胸元に掛かっていなかった。室内にいるのだから持ち歩く必要は無いと判断したのだろう。
「明石、行くわよ」
「いや、そんな取り調べに行く、みたいな顔されても」
言うなれば、ドラマの刑事が犯人を逮捕しに行く、みたいな。そのまんまな気合いの入った顔だった。
「ただ食事に行くだけなんだから、もっと表情を緩めて。捜査は食事のついでって考えて。さぁ、はい。深呼吸して。吸って~、吐いて~」
言われるがまま呼吸を繰り返すと、肩に入っていた力が抜けた。
「はい、笑顔」
「……こう?」
「うん。完璧だね。じゃあ、行こうか」
柔らかい笑顔に変わった小熊と、年中笑顔の明石は一緒に階段を下りて行った。
一階に着いて左側、食堂へと足を踏み入れるとそこにはすでに五人の人物が席について食事を始めていた。
二人用の円卓が等間隔に二十脚。しかしそれが全て同時に使われることはないのだろう 。男女の一組だけは同じ円卓で食事をしているが、それ以外の者はそれぞれ別々に距離を取った席に腰を下ろしている。
小熊と明石は職業柄か、一番端の全体を見通せる席に座るとお互いに身を乗り出して小声で話し始めた。
「ミーシャ、誰が誰だかわかる?」
「向こうの、二人で座っているの――あれが前島六郎。隣は奥さんだと思う。あとはわからない」
「じゃあ、誰か従業員が来たら聞いてみようか。こっちの事情を知っているんだから答えてくれるでしょ」
「そうね」
そうこう言っているうちに田中と同じ服装をした男が近づいてきた。
「小熊様と明石様ですね。お話は伺っております。コンシェルジュの鈴木と申します。以後、お見知りおきを」
田中の能面とは打って変わり、こちらは満面の笑みで深々と頭を下げた。
「鈴木さん。食事の前に今この場に居る人たちのことを教えてもらえますか? 声を落として」
鈴木は小熊たちに体の正面を向けて 他の客には背を向けて立っている。
「畏まりました。それでは向かって右から時計回りに――まずは前島六郎様とその奥様であるむつみ様。続きまして氏家茂樹様、木村朝陽様、大河内了様でございます」
「大河内? 大河内了って、医者の大河内?」
小声で反応したのは明石だった。
「なに、有名なの?」
「脳外科医・大河内了って言えば まだ三十代の天才医師って呼ばれている男だよ。一年のうちに数十種類の症例を手術し、また術式の簡易化も行っていて〝次世代の医師〟って医療雑誌で紹介されていたのを見たんだ。滅多に休みを取らないってことも書いてあったから、今日会えたのは本当にレアなケースだね」
「へぇ、お医者さん、ね」
含みのある言い方だったが、明石は気にする様子も無く、そこで漸く被っていた帽子を取って鈴木に渡すと、それを隣の席に置いた。
「それでは、ご注文をよろしいでしょうか?」
「僕はサラダとサーモン。あと豚肉料理を」
「お飲み物は?」
「ウイスキーある?」
「各種取り揃えてございます」
「じゃあ、スコッチをよろしく」
手慣れた感じで注文を終えた明石は小熊に視線を向けたが、その表情から不慣れで戸惑っているのが見て取れた。代わりに明石が再び口を開いた。
「ミーシャは何のお酒が好きなんだっけ?」
「え、え~っと、基本的には赤ワインしか飲まないんだけど」
「じゃあ、鈴木さん。美味しい赤ワインとそれに合う料理を適当に」
「畏まりました」
何にメモするわけでもなく頭を下げた鈴木は食堂の奥にある間仕切りカーテンの中へと入っていった。残された二人の間には微妙な空気感が漂うが、小熊は自虐的に笑って見せた。
「なんか……悪かったわね。こういう場所に慣れてないのよ」
「だろうね。こういう場所はさ、所謂ホテルとかメニュー表の無い店のことだけど、そういう場合は適当に自分の好みとか食べたい物を言っておけば持ってきてくれるわけ。特に今回はお金の制約が無いから何も気にする必要ないし、ね」
「……あんたは随分と慣れていそうね。そういう高級なお店」
「あれ、言ってなかったっけ? 僕はこれでもお金持ちなんだよ? 当時はミーシャの年収を二、三か月くらいで稼いでいたからね」
明石は椅子に対して体を斜めに向けると脚を組んで、肘をテーブルに掛けた。
「あら、それは悪かったわね。私が逮捕しなければ今でも稼いでいられたのに」
「いやいや、案外今の人生も楽しんでるからね。それに、正確に言えば逮捕はされていないよ。だってあれはただの暴走、でしょ?」
「でも、あんたはここに居て警察に協力している。その時点で私の勝ちよ」
「……そうかもね」
このまま話し続ければ不毛な会話を繰り広げ、不穏な空気になることは目に見えてわかっていたため、明石は自らが折れる形で打ち止めた。
別段、二人の仲が普段からそれほど悪いというわけではない。しかし、相容れない部分が多いというのも事実である。お互いの歩んできた道程――それは正反対と言っても過言ではない。幾度となく小熊が発言しているが、明石は元犯罪者。本人は認めこそしないが、理解はしている。その境遇で小熊に嫌われているであろうこともわかっている。それでも行動を共にしている理由は、そういう契約だからという面が大きいが、おそらく互いに気が付いているのだ。明石が道を間違えていなければ、純粋に刑事として小熊の横に立っていた可能性もあっただろう、と。
故に――事件の捜査を始めた時の二人に言い争いは無い。
沈黙のままでいたところに、鈴木がやってきてウイスキーだけが注いであるロックグラスと ワイングラスを置いて、そこにワインを注ぎ込んだ。
「お待たせいたしました。スコッチウイスキーのアードベッグ、赤ワインは二〇〇三年のロマネ・コンティです。ご賞味ください」
「どうも」
下がっていく鈴木にお礼を言って、ウイスキーを口に含んだ。口の中で香りを味わいながら小熊のほうに視線を向けると、その険しい顔を見てつい飲み込んでしまった。
「ゴホッ――なに、その顔。赤ワインが好きなんでしょ?」
「う、うん。好きなんだけど、ロマネ・コンティって言っていたわよね? 私の記憶が確かなら結構な値段だったと思うのだけれど」
恐る恐るグラスを手に取り、鼻を近付けた。
「ロマネ・コンティ、年代にもよるけど、二〇〇三年ものか。出来の良かった年だし、だいたい今が飲み頃だから……百五十万くらいかな」
「ひゃく……え、百万超えるの?」
「凡そね。まぁ、高ければ美味いってわけでもないけどさ。でも、酔うこと目当てにワイン飲んでる人にとっては関係ないか」
その通りだった。
ワインを一口飲んだ小熊は「美味しい」と呟くと、注がれていた分を半分まで飲み干した。それを見計らったように鈴木が二枚の皿を片腕で持ち、もう片手にはロマネ・コンティのボトルを持ってきた。
「ボトルはこちらのテーブルに置いておきますのでご自由にどうぞ。こちらモッツアレラチーズとトマトのサラダ、こちらはサーモンとフレッシュサラダのオリーブオイル掛けです」
一緒にフォークとナイフを置いて下がっていった。二人はナプキンを膝の上に掛けて一口目を頬張 た。そして酒を一口。美味いのはわかりきっていること。小熊と明石は俯瞰するように視線を空中に漂わせながら、口を開いた。
「それじゃあ、捜査の話をしましょう」
「ここに居るのが五人、残りは措いといてこの中で犯人の可能性が高いのは?」
「大河内了」
間髪入れず。
「だよね。やっぱ。だとしたら動機は?」
「……何かを斬りたくなった、とか。少なくともその技術は持ってるでしょ」
「切るのが仕事なんだよ。それに大学で豚の解剖とかもやっただろうけど、あの切り口はメスじゃ不可能に近い。やっぱり大型の刃物じゃないと」
「道具と技術。加えて動機ね。そのうち二つを持っている者なら考えるまでもなくいるけれど」
「まぁ……シェフだよね」
包丁を持ち、捌く技術を持っている。だがしかし、二人して否定的な顔をした。
「普通に連れ帰って、絞めて捌けばいいだけよね」
料理人なのだから、わざわざ豚小屋で首を切り落として、その首だけを持ち帰る必要はない。小熊の言う通り、隠れて行動する意味など無い。
小熊がグラスを空にしてボトルからワインを注いでいると、鈴木が次の料理を運んできた。
「こちらは豚フィレ肉の赤ワインソース掛けでございます。ソースが残りましたらこちらのバゲットにつけてお召し上がりください」
さり気なく小熊の持っていたワインボトルを隣の席に置き、空になったロックグラスを持って戻っていった。
戻ってくるのを待つ間、食事に手を付けていなかったが明石は匂いで気が付いた。
「これ、炭火焼だね」
「ん?」
何のことを言っているのかわからない小熊は首を傾げて疑問符を浮かべた。そこに丁度新しいウイスキーを注いだロックグラスを手にした鈴木が戻ってきて問い掛けた。
「左様でございます。当ホテルではスーシェフが自ら山に入り、木を選び、約一週間を掛けて木炭を作り出しています。お気に召しませんでしたでしょうか?」
「いや、その逆だよ。道理で良い匂いがする。教えてくれてありがとうございます」
頭を下げて戻っていく鈴木の後を見送って、小熊は一口大に切り分けたフィレ肉に赤ワインのソースを付けて、口の中に放り込んだ。その瞬間に漸く明石の言っていたことが理解できた。口の中で爆発的に広がった炭火の香ばしさが、鼻からも抜けていった。一噛みごとに溢れ出す肉汁と赤ワインのソースが混ざり合い、筆舌に尽くし難い深い味わいを醸し出していた。加えて、ロマネ・コンティとの相性が抜群で、小熊の口角も自然に上がった 。明石に関しては普段から良い物を食べているのか、それとも単に好みの味ではなかったのかはわからないが小熊ほどの感動もなく普通に食べ進めていた。
視線の先で動く人物が居た――前島六郎が席を立ち、妻を残したまま食堂を出て行ったが、ものの数分で戻ってきてハンカチで手を拭いているところを見るにトイレに行っていたのだろう。そのまま席に戻るかと思いきや 小熊と明石の席に向かって足を進めてきた。
「どうも初めまして。前島と申します。お二人はご夫婦で?」
唐突な接触と質問だったが、小熊はグラスを置いて顔の前で手を振った。
「いえいえ、ただの知り合いです」
「おっと、そうでしたか。こりゃ失敬! しかし、私にとっては朗報ですな! 東京で弁護士をしとります。なので何か問題があったら連絡をください。飛んでいきますぞ?」
差し出された二枚の名刺を受け取った。そしてすかさず明石が疑問を投げかけた。
「優秀なんですか?」
「ハッハ! それは場合によるでしょうな! 貴方が金持ちなら貴方にとっては優秀だ。だが、相手が金持ちだったら……どうでしょう?」
「ってことは、つまり悪徳だ」
その発言に一瞬空気が凍り付き、一気に小熊の酔いが醒めた。しかし――
「ハッハッハァ! ぐうの音も出ませんな! しかし、その通り。私は金さえ払ってもらえれば被害者も加害者も関係ないのですよ。あ、このことは内緒ですよ?」
酔っていたのか、それだけ言うと妻の座る席へと戻っていった。
「わぉ、愉快な人だね」
軽く言ってのけた明石に、小熊は無言で拳を握り肩を叩いた。
二人は警察官だと名乗っておらず、特に明石が刑事のような見た目をしていなかったから良かったものの、もしも感づかれて警戒でもされていたらこれからの立ち振る舞いが厄介になっていた。
小熊は先程の緊張感からか余計に酒が進み、ロマネ・コンティのボトルを空にすると次の赤ワインへと手を伸ばした。
二人が何気なく辺りを観察していると、入口から背が高く細身の割に妙に筋肉質な男が入ってきた。
「ちわーす。あれ……なんか知らん人が居るな」
男の視線は小熊と明石に向けられ、そのまま近寄ってきたと思ったら隣の椅子を引き、背凭れを前にして跨ぐように腰を下ろした。
「やぁ、どうも。珍しいな、こんなタイミングで。俺、海老原幾治。知っている?」
その問いに、小熊は疑問符を浮かべてワインを飲んだが、明石は頷いて見せた。
「知ってる。元陸上選手、走り幅跳び日本記録保持者。今は……解説者?」
「それとコーチな。あんた等は――ワケありそうだから訊かないでおくよ。でも……あんた等は。ここに泊ま ている人たちに興味がある。そうだろ?」
図星を突かれた二人はそれがわからないように視線を合わせた。切り返し方次第で全てが変わってしまう。だが、応えるよりも先に別の方から怒ったような、子供を叱るような声がした。
「海老原くん」
「まぁまぁ、教授。そうカッカすんなよ。どうせ今日が最後の夜なんだ。このメンツが再び出会うことも無い。無礼講といこうや。悪いな、口が軽いのが俺の悪いところだ。治すつもりも無いけどな!」
シニカルに笑った海老原は食堂内を見回して、再び小熊と明石に視線を戻した。
「もう弁護士先生とは話したよな? 気を付けたほうがいいぞ。あの人は夜になると自分の売り込みに来るんだ」
「それなら。ちゃんと鍵を掛けておかないと」
「開けなければ大丈夫だ。で、その隣に居るのが奥さん。そんで――さっき俺のことを呼んで、野菜ばっかり食ってんのが歴史学者であり大学教授の木村朝陽。まぁ、変人だな」
薄い頭髪に、伸ばした髭が際立っている。学者と言われれば大した違和感は無い。
「どこの大学?」
「それが教えてくれないんだよ。有名なところらしいけど、そこまで調べようとは思わないよな!」
それこそが関係性の希薄さを物語っている。所詮は一週間のみの付き合いで、再び泊まりに来たとしても確率的に出会う可能性は低い。世間話程度はするが、それ以上は踏み込まず興味を持たない。それくらいが丁度いいのだ。
「んで、次。無精ヒゲを生やしてバカスカ酒を飲んでいるのは氏家茂樹。社長。一つ席を挟んだ隣で肉ばっかり食ってんのが大河内了。外科医って話だ。医者が肉を食うってのはなんだか皮肉っぽいよな」
小熊は頭の中に海老原からの情報を書き留め、それぞれの顔と当て嵌めるように遠目ながらも確認した。
「あ~……あとはこの場にいないのか。一人は社長さんの知り合いである税理士の金山っていう男。まぁ、少なくとも俺との気は合わないな。あとは木村さんと同じ大学で准教授の小畑弘明。っと、そうだ。大物を忘れていたな。知っているか? 政治家の笹川洋介。それに――誰と一緒に来ていると思う?」
渡された名簿とこれまで出てきた名前を比較して、残ったのはあと一人だけ。
「……愛人とか?」
「おしい ! 半分は正解だ。その相手ってのが――秘書なんだよ。これは、秘密だからな」
それだけ言うと、海老原はそそくさと離れた席に腰を下ろした。
海老原の下に鈴木が歩み寄り注文を取っている姿を見ながら、明石はウイスキーを口に含んだ。
「……思わぬところから情報が手に入ったね」
「そうね。一応は手間が省けたけれど、なんの手掛かりにもならないのが現状よ。そっちは?」
「そもそも僕の方は人柄とか関係ないからね。それに、どちらかと言えばどの時間に誰がどこに居たのかを知りたいよ」
「でも、それを訊けば間違いなく怪しまれるわ。どうしたものかしらね……」
「どうしようもないと思うけど」
頬を紅くした小熊は、グラスに残っていた分のワインを一気に飲み干そうとしたが、その手を止めた。
「ちょっと飲み過ぎたかしら」
傍らには高級ワインのボトルが三本も空になって置かれていた。
「別にいいんじゃない? 明日は土曜なんだしさ。それがわかっていたから警視総監も泊まっていいって言ってくれたんじゃないの?」
「……それもそうね」
小熊の思考は最早停まり掛け、残っていたワインを飲み干すと同時に鈴木が新しいワインを持ってきた。
すでに食事は済ませているが、明石がその場に留まっているのは宿泊客を観察するためだった。しかし、小熊が四本目のワインボトルを半分まで飲んだところでテーブルに頭を打ち付けるよう眠りに着き、そのまま部屋まで連れ帰ることになった。
大きさのせいで抱き上げることが出来ず、仕方なく肩を掛けるような形で引き摺るように二階の六号室へと向かった。渡されていたカードキーでドアを開け、ベッドの上に放り投げた。その時、カードキーを渡されたのはこうなることを想定していたんじゃないか、などという考えも浮かんだが、部屋を出ようとリビングを通ったときソファーの上に綺麗に畳まれたパジャマを見つけて、そちらのほうに気を取られた。
つまり、田中が食堂にいなかったのはこれが理由なのだ。マスターキーを持っているのは一人だけ だから、部屋の主が居ない時に入り込んで。こんな準備が出来るのは田中しかいない。合点がいった明石は隣の七号室へと向かった。
部屋の中には六号室と同様にパジャマが置かれていたが、明石はそれに触れることなく真っ直ぐに寝室の受話器を手に取った。
「――あ、もしもし? ちょっとお願いがあるんですけどいいですかね? 実は――」
要は、今から小一時間ほど風呂に入るからその間に着ているスーツ一式を洗濯しておいてほしい、ということだ。本人すらも若干無理な要求かと思 ていたが。
「畏まりました」
電話対応した男はそう言って電話を切った。一抹の不安は残るものの、しかし畏まったのなら明石の次の行動は決まっている。服を脱いで風呂に入った。
出てきたときにリビングで見つけたのは『クローゼットへ』と書かれたメモ。指示通りに向かうとハンガーに掛けられたスーツとワイシャツを発見した。一体どうやったのかはわからないが、見事に仕事を熟して見せた。さすがは〝最上のサービス〟だ。その皺一つない完璧な仕上がりはクリーニング店に退け劣らないだろう。いや、時間はその比ではない。
ベストまで着込んだ明石はジャケットを手にリビングに戻った。ジャケットを一人掛け用のソファーに掛けて、ベッドルームを一瞥すると三人掛け用のソファーに腰を下ろした。そして、そのまま体を傾けると天井を見上げて、中折れ帽で顔を覆うと瞼を閉じた。
ベッドでは眠れない。これは、昔からの癖のようなもので、どうしようもない。
明石が静かに寝息を立て始めた頃、ホテルの中では様々な思惑が渦巻いていた。だが、誰も――第三者は誰一人として、そんなことには気が付かない。
そして誰も知らぬまま、全ては混乱と困惑の中へ落ちてゆく。
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