第11話 ゴミとクズ
診療室に一人残った少年はずいぶんと深刻な顔をしていて、響ちゃんのことが大切なのだなと分かった。
「ひびきちゃん、きっと大丈夫よ。詳しくは言えないけれど、きっと」
と声をかけてみたけれど少年の表情は明るくならない。
「家族なら…」
絞り出すような声は私の耳には届かず、聞き返した。
「血が繋がってたら、詳しいことも教えてもらえますか」
「ええ、親族には伝えてもいいことになってるわよ」
義務云々の説明は必要ないだろう。
それにしても、この子にどこか響ちゃんと似た雰囲気があると感じるのは気のせいなのか。
ぼんやりしていた私はまた聞き返してしまった。だって信じられなかったのだ、彼の発言が。
「俺は、響の兄です」
あの日三人の中で、「今日のことは口外しない」と決めた、はずだった。
ひびきは大変なんだから、静かに待って居ようって。
それがどうして、やれ響は病んで狂ってしまったなんて馬鹿な噂が立っているのか。
登校するやいなや、響と私とともに育ってきたもう一人の幼馴染が珍しく私に駆け寄り真剣な表情で「ひびき、狂ったとかって言われてるけど」と報告してきた。
私は今登校してきたばかりで、梅田はバカだしアホでデリカシーもくそもないような奴だけど、約束は守れる人間だってことはよく知っている。土方は約束の場には居ずともひびきが迷惑を被るようなことはしない。
そうなると残るのは、あいつ。
廊下で幼馴染の話を聞いて、頭が真っ白になったまま、教室の扉が大きな音を鳴らしたことで目立ってしまっていることも気にせずまっすぐに、いつも一緒にいるグループに向かって歩いた。
何事もないような顔でやつは「おはよう、まゆ」と声をかけてきた。
気色わるい。
私は挨拶も無視して、そして、奴の憎たらしい顔を思いっきり、打った。
そして私よりも背の低い奴の髪を引っ張り上を向かせて
「お前がそんなにゴミだったことに気づけなかった自分が憎いよ、結花。」
と言った。
それで怯えたような顔をしたつもりか、私を睨みつける目は隠せてないけど。
「レイプされるようなビッチの幼なじみは暴力女ってわけだ…なんちゃって。」
小声のつもりだろうがしっかり聞こえた。
なるほど、よっぽど殺されたい奴がいたらしい。
結花を突き放し声の主を見ようと思って振り返ろうとしたらガラガラと机が倒れる音が聞こえて驚いた。
音の発生源を見るとなんと、土方が声の主だろう男子を一発殴った後だった。
土方は男子に乗っかり胸ぐらを掴むと、
「次ふざけたこと抜かしてみろ、」
「俺はお前を殺すぞ。」
と、いつにも増して低く、今にも殺しそうな声で言った。
騒ぎを聞きつけた担任が来ると土方は何も無かったように立ち上がったが、言い訳は何もしなかった。
だが、結花が私のことを言おうとするより先に
「俺とこのクズがただ喧嘩しただけです。他は関係ありません。なにもありませんでした。」
と言った。
私は庇われたのか。後で礼をしなければ。
後ろからコソコソと声が聞こえてきた。
「土方くん、あんな怖い人だったんだね…」
「でもあれはあいつが悪いよ。土方くん日野さんのこと好きだったでしょ?好きな子の事あんなふうに言われたらねぇ…」
好きな人…
そういえば一度だけ響から聞いたことがあったな、忘れられない初恋の人の話。
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