第10話 嘘つき
母の声に返事もせずに二階に上がって、ベッドの上で今日のことを振り返る。
ひびきの叫び声をきいて、苦しそうな姿をみて、ナースと主治医らしい女医が駆け込んで私達は邪魔にならないように端によるしかなくて。
仕事を終えたらしい女医が気づいて「ついてきて」というまでぼんやりしていた。
考えなしにも程があったと。ただ一人、土方だけは思いつめた顔をしていたけれど。
女医に連れられ着いた先は診療室らしき場所。
名札には辰巳と書かれていて、今更女医の名前を知ることができた。
「少し待ってて」と辰巳さんが奥に行くと梅田が幼稚園児みたいに辺りを見渡し始めて焦ったが、辰巳さんがすぐに戻ってきたのでなにも起こることなく話を聞ける態勢に身を置くことができた。
「貴方達は、ひびきちゃんのお友達?」
柔らかい声で辰巳さんが聞くとすかさず結花が弱々しい声で「はい」と答えた。
(うそつき。)
心の声が漏れそうになる。
友達なんかじゃないくせに。
響が土方と仲良くするたび、いい子ぶってるとか男に媚びてるとか陰口を言ってることなんて知らなかったのは響と土方だけってくらいあからさまだったのに。
どうせ私の悪口も言ってる癖して、金魚のフンのように付きまとって、今回だってどうせ私と土方が行くから来ただけのくせに。
なんであんたが一番に返事をするのよ。
「そう、私は辰巳リコ、ひびきちゃんの主治医をしているの。お見舞いに来てくれてありがとう。」
結花を睨んでしまいそうになったが辰巳さんの声にハッとする。
ありがとうっていって微笑んだ辰巳さんににやけそうになっていた梅田の足を踏んづけておく。
「日野、どうしたんですか」
真剣な面持ちの土方が本題に切り込んだ。
疑問形のくせに疑問符はついていないような、何と返ってくるのか分かっているような表情をしながら。
「薄々感づいている子もいるかもしれないけれど、ひびきちゃんは今ちょっと、不安定な状態なの」
言葉を選びながらそう答えられた。
直接的な言い方はしなかった、いや、できなかったのか?
「だから、お見舞いはありがたいんだけど、しばらくはお断りしないといけないわ。今回は忙しくて親族以外の面会はできないって伝わってなかったけれど」
気持ちはひびきちゃんも嬉しいと思うけどね、と付け足しながら辰巳さんは言った。
そうして少し雑談をして、結花と梅田は帰らされた。
私は帰る少し前に辰巳さんに
「手紙でもダメですか?」ときいた。
だって、普段は一緒にいなくても幼馴染だから、心配は結構しているのだ
「渡しにさえ来てくれれば、私から渡すわ。」
辰巳さんは微笑んで、それから私の頭を撫でた。
「ありがとうございました。」といって私は帰ったけど、土方はなんでまだ残っていたんだろうか?
私は小学生の頃、響と喧嘩したときにうまく謝れずに使った以来のレターセットを引き出しから取り出し、手紙を書き始めた。
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