第8話 秘密

二年前、俺が小学校を卒業するやいなや、父が死んだ。随分前から死ぬと分かっていた病気だったと祖父母は言っていた。だから離婚したのだと。


父の遺言は『家族を守れる男になれ』だった。


祖父母のことじゃないのは分かっていた、ミライの家族のことかもしれなかったけど、俺が思ったのは、離婚した母と、そして、俺の双子の妹「ヒビキ」。


母も妹も、最後に会ったのは両親が離婚したときだから十数年前になる。


妹が俺のことを憶えているとは思えなかった。


父が死んで、俺は祖父母の家で暮らすことになって、これじゃあ二人を守るどころか会いに行くことすらできないのではと考えた。


しかし、幸か不幸か祖父母の家は母と妹の暮らす地域と同じ校区にあり、俺はヒビキと同じ中学に上がることとなった。


偶然にも同じクラスになり、俺の苗字は土方ひじかたでヒビキの苗字は日野だから出席番号が前後だったから話しかけるのにそう時間はかからなかった。


「周りの人と話してみましょう」という担任の言葉にこれ以上のチャンスはないと俺は後ろを向いてヒビキに声をかけた。


「日野、だよな。俺は土方虎丸、虎って呼んで」


「日野響です、虎くんって呼ぶね。虎くんって小学校この辺りじゃないよね?」


「ああ、俺引っ越してきたから」


ヒビキって呼ぶ勇気はなかったけど、『虎くん』と呼ぶ響の声が記憶と重なって思わず自分が双子の兄だと伝えたくなったが急に言っても何だこいつとしか思われないことは確かなので、なんとか抑えた。


こうして、なんとか話せるクラスメイト程度の認識にはなったと思う。


それから特筆すべきことはなく学年が上がって、違うクラスになって絡むことは少なくなって、でも関係が途切れるのは嫌だったからたまに響に会いに来たりした。


するとそれが加藤まゆの目についたらしく、響と話してるときに声をかけられた。


「響と土方ってなんか仲いいよね」


仲いいとぼかしてはいるが俺と響が恋愛的な関係だと疑っているのはあからさまだった。面倒な奴。


しかし響は加藤の他意に気づかなかったのか


「うん、仲良くしてもらってる」なんて言って笑った。


そんな響の鈍さに呆れたのかは知らないが、加藤はふてくされたように去っていった。




俺が事件のこと、そして加藤たちが日野の病院を訪ねることを知ったのは単なる偶然だった。


彼奴らは苦手だ、響を困らせかねないから。


だからついていくことにした。


気に入らない梅田うめだ一翔かずとと行くことを我慢して、大して話したこともない玉城たまき結花ゆかに馴れ馴れしく虎くんと呼ばれることに耐えて、やっと響に会える、その直前に嫌な予感がして、


そして、俺は響を苦しめる原因になってしまった。






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