第7話 迷惑
「ガチで来ちゃったよ」
「何?今更会わずに帰る気?」
「そういうわけじゃないけど…」
「てかなんで日野の病院が分かったんだ?」
「企業秘密!早く入っちゃお」
「それにしても随分大きいとこにいるんだな、三郷総合病院って」
三郷総合病院は地元からは結構離れた大きな病院で滅多なことがないと私らは行かないようなところだけど、信頼は厚くて「三郷に行けば基本治してもらえる」なんて言われている。
中に入ると、まゆは率先して受付に行った。
「こんにちは、日野響さんの病室を伺いたいんですけど」
そんなまゆに残された私と
沈黙に耐え切れなかった私は
「まゆとかずは来たがってたの知ってるけど、虎くんも来るなんて意外だな」
と話題を出してみた。
「別に、お前らが日野に迷惑かけないように来ただけ」
虎は仏頂面を崩すことなく淡々とそう言った。
「随分な発言だな、迷惑なんてかけないよ」
一翔が心外だという顔で虎を睨みつけていうと応戦するように
「本来なら来るのも迷惑だろ、お前みたいな傍迷惑野郎」
と虎くんは言って、二人は睨みあってしまった。
(話題間違えた…)
二人が合わないのはクラスでは常識とされているのに、連れてきたまゆを恨んでしまう。
一翔は睨み合いをやめて私のほうを向くと
「俺はこんなどうでもいいやつより
といった。
「私は、ひびきに会いたくて」
嘘は言ってない、けど最も大きな理由はそうじゃなくて、まゆが何かやらかさないか心配だったからだ。
そんな話をしているとまゆが戻ってきて「508号室だって、行こ」と言ったので私は虎くんが一翔だけじゃなく、私とまゆをも睨みつけていたことに気づかなかった。
エレベーターで5階まで登り、いよいよひびきの病室の前まで着いた。
まゆが扉を開ける少し前、虎くんが小さな声で「嫌な予感がする」と言ったのも、
茶髪のナースさんが「待って!」と慌てた表情で言ったのも私には聞こえたのに、
まゆを止めるには遅くて、病室の扉は開いてしまった。
「久しぶり、ひびき。お見舞いに来たよ。」
まゆがそう言ったのに返事はなかったけど、最初は喜んでいるように見えた。
一翔と虎くんの姿が目に入るまでは。
ひびきの顔は、すぐさま絶望に染まった。
「いやあぁぁああああ!!」
日野の叫び声が病院に響き渡り、茶髪のナースが俺達を退かせて病室に入っていく。
過呼吸になった日野を前に俺達は何もできなかった。
目の前で病室の扉が閉じられても、苦しそうな日野の声は聞こえてきた。
考えれば分かったことだ、日野は奴の被害に遭ったんだから
男性恐怖症になってる可能性の方が高かった。
俺たちは、日野の傷を抉ってしまった。
嫌な予感の正体はこれだったのか。
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