第4話 蘇る

10月13日


目覚めてから4日、私はやっと動けるようになった。


4日間で会ったのはママと主治医の辰巳たつみ先生、そしてナースさんだけだ。


気をつかってくれているのだろう。


今日は起きてからなんだか気分がいい、声は相変わらずでないけど。


コンコン、


返事が出来ないことを来てくれる三人は知っているからいつもならここで扉が開く。


コンコン、


三人じゃないのか、だれだろう。


扉が開く。


目に入ったのはパジャマを着た小さな男の子、5歳くらいかな。


「おねえちゃん、はいってもいい?」


コクリと頷く


「おねえちゃん、こえでないんだ」


ベッドのそばに置かれた机の上のノートを手に取り、『おなまえは?』と書く。


「ぼくはりゅう!ドラゴンのりゅうなんだよ、かっこいいでしょ」


心なしか胸を張りながら龍くんは言う。


『かっこいいおなまえね』


「えへへ、ありがとう。おねえちゃんのおなまえは?」


『わたしはひびきっていうの、よろしくね』


書き終えてから微笑む。


「ひびきおねえちゃんっていうんだね!ぼくね、おとなりのへやなの!でね、いつもさみしかったんだけど、おとなりにひとがきたってナースのおねえさんがいってたから、ずっとあいたかったんだ!」


可愛らしい理由、ずっとってことは長いこと入院してるのかな。


「でねでね、ぼく、ひびきおねえちゃんとね、おともだちになりたいんだ!」


ページをめくり、『もちろん、おともだちになりましょ』と書いた。


そのページをみせると龍くんは「やったー!」と喜んでいた。


このときは久しぶりにいい気分だった、小さなお友達ができたことで少しは癒されないかと、期待していた。


喜ぶ龍くんを見ていると、さっき龍くんが入ってきたままになっていた扉から人が入ってきた。



「こら、龍くん。お隣さんの邪魔しちゃダメじゃないか。」


入ってきたのは、白衣を着た、オトコノヒト。


途端に世界がスローモーションになったような気がした。


白衣なんて着てなかったのに、髪色なんて見えなかったのに、背だってあんなに高くなかったのに、違う人だって、わかっているのに。


奴が、奴が脳にこびりついて離れなくなっていたことに、私は気づかされてしまった。


[ひびきちゃん]


「…っ」


[泣かないで]


「…ぁ」


[気に入っちゃった] 


「…ゃ」


[ひびきちゃん]


「…ぃゃ」


[ひびきちゃん]


「…いや」


[ひびきちゃん]


「いやぁぁあぁあっ」


声が出たことなんて気づかなかった。


龍くんの声も聞こえなかった。


奴の声が私の脳を支配して、私は息ができなくって、、それで、





[ ひ び き ち ゃ ん ]




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