第3話 赤

「可愛かったよ、ひびきちゃん」


力の抜けきった私に声をかけながら奴は指を触る。


私はナカに出された液体が流れ出るのを感じながら制服を着せられていた。


顔を見ようにも奴はすでにフードを被っていたから見えなかった。


奴が取り出したのは血のように赤いネイル。


私の左手を持ち上げ、薬指に塗り始めた。


塗られるのを感じながらひたすら早く終わればいいのにと願った。


「ひびきちゃんは爪が綺麗だね」


恋人でも相手するかのような態度が気持ち悪い。


流しすぎて枯れたとすら思った涙がまた流れ始めた。


気づいた奴が指で拭う。


「泣かないでよ、興奮しちゃう」


「もう、殺して」


「殺さないよ、俺を憶えていてほしいから。」


塗り終わった奴は、私の唇にキスを落とした。その時に口に何かが入った気がする。


「俺、ひびきちゃん気に入っちゃったな」


どうでもいい、ただ殺してほしい。


「今はゆっくり眠って、またいつか会おうね、ひびきちゃん」


そう言うと私の瞼をおろした。


私は胸の上になにかが置かれるのを感じながら、眠りについた。


置かれたのはきっと、



【小さな果実マスカット




【10月6日、新たに一人、マスカットの被害者が見つかりました。

被害に遭ったのは5日の夜と思われ、被害者は現在も目を覚ましておらず___】


気がつくと、目についたのは白い天井。


手に感じるぬくもりの先には眠る母がいた。


手を少し動かすと母は身じろぎしながら目を覚まし、そして私に気づいた。


「おはようひーちゃん、、ひーちゃんっ、起きたのね、、」


ママ、と言おうとしたのに声は出ず口からは空気しか出なかった。


「待っててね、もうすぐ先生来るからね」


いくら声を出そうとしても出ない。


なんで。


「声?きっと3日も眠っていたからね、大丈夫よ、大丈夫、、」


母が私に言ってくれているのか、それとも、自分に言い聞かせているのか




今の私には分からなかった。





女性の先生がきて、身元を確認するような質問をした。


日野響、14歳、ママと二人暮らしでお父さんは離婚してから一度も会ってない。


あの夜のことは、鮮明に憶えている。


今日は10月9日、私は6日の朝に発見されて三日間目を覚まさなかったらしい。

もしかしたら二度と目を覚まさない可能性もあったと、先生は言ってた。


いっそ目なんて覚めなければよかったのに。


奴が残したのはマスカットと赤いネイルだけじゃなかった。


私には見えないうなじのあたりに奴は消えそうにない切り傷をつけていたようだ。


それはまるで呪いのように濃く刻まれていると誰かが言った。


あながち間違っていないのかもしれないけれど。


私も知らない誰かに「公園に行った方も悪い」って言われているのだろうか。


「犯されに行ったんじゃないか」って思われているのだろうか。


自演だろなんて言われているのだろうか。


心のこもってない『可哀想』を、送られているのだろうか。





今はただ、この汚れた体を捨てて、消えてしまいたかった。









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