第2話 油断
【10月5日、本日は話題の強姦魔、マスカットについての特集を組みたいと思います】
八時台の番組で付けたままのテレビからキャスターが話しているのが耳に入る。
遅番から帰ってきた母が夕飯の準備をする音が聞こえる。
「制服のままでくつろいでないで今のうちにお風呂入っちゃいなさいよ、のんびりしてたらそのまま寝ちゃうんだから」
「うん、分かってる」
なんて返事しながら動く気がしない。
「あ、ママ牛乳買い忘れちゃった、ひーちゃん買ってきてくれる?」
「ええ、ママ、私黒髪だよー?マスカットに狙われたらどうするのー」
「そんな滅多なことないから早く行きなさい、クリームシチューが食べたいって言ったのはひーちゃんでしょ」
「ちぇっ、行ってきまーす。私が被害者になったらママのせいだからねー」
冗談だったんだ、狙われたらとか言いながらそんなことあるわけないって、私は。
家から三分のコンビニじゃ売り切れてて、何にも買ってこないわけにもいかないし遠くのコンビニまで行ってしまった。
(結構かかっちゃったなあ)
歩いていると、今日まゆ達が話していた現場の公園が通り道だということに気づいた。
(被害者の人、可哀想)
しかし、言い方は悪いけど所詮他人事。心の奥でそう思っていたのかもしれない。
それでも少し怖くて音量を大きめにしていたのが悪かったのか、母の無かったならいいから帰ってきなさいというメールの通知に注目していたのが悪いのか、そもそもこの道を通ったのが悪いのか、
油断していた私は、後ろから迫ってくる悪意に、気づくことができなかった。
夜の公園
奴の荒い声が耳元で聞こえる
いたい、イタイ、痛い。
私のナカに奴がいるのが気持ち悪い。
やめて、ヤメテ、止めて
動かないで
その汚い舌で私を舐めないで
汚い指で私に触れないで
お願い、
耳を舐める舌に一箇所だけ金属のような冷たさがあった
暗闇なのに、胸を触る指に青が見えた
地獄だ。
私は、地獄にいるのだ。
「気持ちいいね、ひびきちゃん」
脱がす間に生徒手帳でも見たのか、凄く愛おしいとでもいうような声で私の名を呼ぶ。
やめて、気持ち悪い声で私の名前を呼ばないで。
気持ちよくなんてない。
いやだ、もういやだよ
帰して、お願い。
口を覆う布を外された代わりに、気色の悪い唇が、舌が、私の口を塞ぐ。
この地獄は、いつまで続くんだろう
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます