マスカット
佐々木実桜
第1話 他人事
【またしても、例の犯人による事件が発生しました】
例の犯人とは数か月に現れた強姦魔、通称マスカットのことだ。
狙うのは黒髪の女学生で現場は決まって夜の公園、後ろから襲い掛かり、動けなくした被害者の尊厳をなくした後、これまた決まって左手の薬指に真っ赤なネイルを塗り、新鮮なマスカットを一粒置いて、そして去っていく、なんとも格好つけた腐れ外道。
詳細はまとめサイト情報だから信憑性は薄いが、まあみんなが知ってる情報はこんなものだろう。
容姿については特徴が発表されておらず、何もわからない。
サイトでは、「なぜ赤いネイルを塗るのか」やら「なぜ公園なのか」やら「マスカットを置く理由」やら、脈略のない推測が馬鹿みたいに溢れかえっている。
やれ「ネイルは自分のものにした証」だの「きっと子供のころの思い出を」だのそんなことはどうだっていい。とにかく奴を見つけるだけだ。
【今月に入って二度目の犯行です、女性の皆さんくれぐれも夜間の外出は控えるように】
また被害者が出た。
今回で四、いや五人目かな。また黒髪で、また夜の公園で、またマスカットが置かれていたらしいと噂が流れてきた。
『こんなに被害出てるんだから夜中に公園に行く方も悪いだろ』
『てか犯されに行ったんじゃねぇの』
『ワンチャン自演』
なんて非情な言葉が飛び交う、セカンドレイプってこのことを言うのかな。
可哀想。
クラスの一軍の子たちが話してる横で私は授業の準備をする。
「今回の現場めっちゃ近いらしいよ!」
「マジ?あとで見に行こうぜ、俺ちょっとファンなんだよ」
「ガチで言ってんの?w趣味悪っw」
「だってマスカットってすげえじゃん、全然捕まんないし。俺小さいころから餡子のヒーローよりばい菌の悪役の方応援しちゃうタイプでさ」
「こいつひねくれてるわw」
「まあ私もちょっと興味あるから放課後みんなで行こ!」
「珍しいじゃん、まゆが乗り気なの。」
「ネットでさ、被害者たちが犯人の容姿話さないのってイケメンだったからじゃないかって考察読んだんだよね」
「馬鹿すぎだろw」
「まあさすがに信じてはいないけど、犯人がもしイケメンでかつ気持ちいいなら話は違ってくるってもんよ」
近くの席のまゆがそう言い終わると同時にチャイムが鳴った。
なんて悪趣味な話だろう、被害者の人達は望んで襲われたわけじゃないのに。
なんて考えさえ結局は他人事だったことを私が知るまで、
あと、少し
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