昔、男が武蔵の国まで放浪していた。それでまあ、当地で、ある女を求めていた。

女の父は別の男と結びつけようと言っていたが、母の方は、高貴の者に縁づけようとしていた。父は大した身分ではなく、母は藤原氏だという次第ゆえ、母の方は高貴な人のもとに嫁がせたいとの思案があった。

という訳で、母は婿にと定めたこの男に歌い送る。在所は入間の三芳野というところであった。

この三芳野の田の面に

雁が降り立ち

ああひたぶるに

鳴いている

ああひたぶるに

なぜ鳴くの

こんな田の面で

なぜ鳴くの

頼もしき方、ひたぶるに

求めているから

鳴くのです

男はすぐさま返す。

聞こえます

この三芳野に

ああはっきりと

わたしを呼ばふ

雁の声

聞こえます

かりそめにあらぬ

この声が

聞こえます

わたしを頼み

田の面から

とかいうわけで、まあ、他国においてもこんな有様。

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