第1話 サキュバス婦人殺害事件
深夜
さびれた街角 黄色の紐で封鎖されている
刑事の登場
キマイラ(刑事)「事件は?」
ゴブリン(制服)「こちらです」
二人は歩きながら話す
ゴブリン「事件は昨夜8時過ぎ。被害者はサキュバス婦人。後ろから一発こん棒で殴られ即死したようです。当時近くに来ていた神父が悲鳴を聞き街頭に飛び出て犯人を発見し確保」
キマイラ「えらいおっかない神父様だな。鞭でたたいたのか?」
ゴブリン「いえ触手で二人同時に一撃だそうです。犯人は二人のごろつきです。その後呼ばれた巡回中の刑事二人がその場で確保。現行犯逮捕です」
キマイラ「で事件解決。なんで呼ばれた?」
ゴブリン「それは部長殿にお聞きください」
街灯の下
タコのような神父と品がいい吸血鬼が二人で会話している
オクトパス(神父)「ひどいことです」
女吸血鬼(部長)「えぇ全く」
キマイラ「ボス」
その前に神父に気づくキマイラ
キマイラ「神父様。この度は」
オクトパス「これはどうも。ひどいことです」
女吸血鬼「神父様。いったん失礼させていただきますが、引き続き巡査のほうで確認をさせていた来ますのでご協力のほどお願いします」
オクトパス「えぇ、もちろん」
ゴブリン「手短に終わらせますので」
現場に向かう二人
キマイラ「神父を前にする萎縮するのはなぜでしょうね」
女吸血鬼「わかりますわ。日曜日の教会を思い出しますもの」
キマイラ「別に信者ってわけじゃないんですが、それでなぜ呼ばれたのですか。強盗班の仕事でしょう。というより解決してる」
女吸血鬼「検視の際に巡査が気づいたのですが、婦人の靴下の中にこれが」
キマイラ「緑色の宝石ですか」
女吸血鬼「えぇエメラルドです。結構、いや、かなりの高額の品ですよ」
高そうな服を着たサキュバス婦人の死体の前
数人の怪物が集まり相談中
唯一の人間が気づき声をかける
人間(検視官)「キマイラさん」
キマイラ「どう?」
人間「どうといわれても。まず死因ですが鈍器による後頭部への一撃。神父様が確保した容疑者が持っていた凶器とほぼ一致していますからおそらくそれかと。確定的な事は言えませんので正確な鑑定結果は報告書をお待ちください」
キマイラ「身なりはいいな」
人間「えぇ。私もそう思ったんですが財布の中身は薄いです。というかほぼ空に近い」
オーク(刑事)「容疑者は財布は調べたが抜き取るまえに殴られたと。神父様の話とほぼ一致してるから嘘ではないと思う」
キマイラ「抜き取られた感じでもねぇな。容疑者は?」
オーク刑事「詰所の留置所に叩き込んである。殺す気はなかったとさ」
人間「横から口をはさみますが、おそらくそれは本当でしょう。後頭部に事件より前にできた傷がある。治りかけてたところにもう一撃食らわせたのが要因であって普通のサキュバスでしたらこの程度の傷では死なないと思います」
女吸血鬼「運に、恵まれなかったのね。うぁ。気持ち悪い」
オーク「部長。いい加減死体になれませんか?」
キマイラ「やめとけ。いいところのお嬢ちゃんでにはつらいよ。俺も昔はそうだった」
人間「いつ間にかなれるんですよね。不思議なもので」
キマイラ「まとめるとだ、身なりは良いが財布は空、その割に靴下の中に高そうなエメラルド忍ばせてたご婦人が殴られて殺されたと。なるほど、身分を証明するものは?」
人間「財布の中に身分証はありません」
オーク「鞄の中には複数のパーティーの招待状、ずいぶんと変わった名前だ」
女吸血鬼「見せてくださる?この名前は吸血鬼位しか使わない名前よ。偽名ね」
キマイラ「身分不詳。ますます怪しいね」
人間「あの安置所に連れて行っていいですか」
キマイラ「あぁ、頼むよ」
袋に詰められ運ばれる死体
巡査のゴブリンとオークに手伝わせながら人間もついていく。
場面から退場
代わりにゴブリン登場
ゴブリン「部長。神父様の取り調べは終了しましたのでお返しいたしました」
女吸血鬼「ありがとうございます。それで周辺の聞き込みは?」
ゴブリン「事件について新しく判明したことはありません。ただし男たちをこの辺で見かけた人はいないようです」
オーク「あぁ言う手合いが下見もせずにやるとは思えんが」
女吸血鬼「女性のほうは?」
ゴブリン「こちらは複数回見かけた人がいますが、職業など詳しい情報は不詳。タバコなど生活雑貨を購入することはあったが基本的に質素だと」
女吸血鬼「金持ちじゃないのかしら?」
キマイラ「金持ちが年中うまいもんくってるわけじゃないでしょう。そういえばお前が気づいたんだとか?」
ゴブリン答える
ゴブリン「はい。被害者の生死を確認した際に何か足が妙な形に膨らんでいましたので、検視官殿にその旨伝えました」
キマイラ「いい目の付け所だな。なぜ足を見た?」
ゴブリン「なぜかといわれますと順序だているわけではないので困るのですが」
頭を二度三度かくゴブリン
ゴブリン「普段この界隈で巡回業務を行っておりますが、ここは金持ちが来るような場所ではありません」
キマイラ「言われてみりゃまぁそうだな」
ゴブリン「それで私はてっきり売春婦の類かと思いました。この通りでは捕まえたことはありませんが、近くの繁華街にはたまにサキュバスの売春婦や風俗嬢の類が客引きを行っていますので、その関係かと」
オーク「確かにあの連中なら身なりは良いが財布は薄いな。あっても妙なもんにつかっちまう」
ゴブリン「それで以前一度売春婦を捕まえたことがあるのですが、彼女たちは靴下に金目の物を隠す習いがあるようで。それで目視で確認をした次第でございます」
女吸血鬼「経験に勝る武器はないわね。ありがとうございます。行っていいわ。聞き込みが終了次第閉鎖を解いてくださる。私たちも詰所にかえりましょう」
詰所。
デスクと大きな犬小屋が一つ
名前は「キマイラの席」
女吸血鬼「それでですね。えっと」
キマイラ「まず我々の目的」
女吸血鬼「そうね。うん。この事件において私達の目的は以下の2つです」
・被害者(サキュバスA)の身元確認
・エメラルドの所有者の確定。返還
オーク「部長。こういっちゃなんですが、そんなの盗難班に任せちまえばいいんじゃないですか?というか連中の仕事でしょう」
女吸血鬼「盗難品か確定しない限り扱えないと。連続盗難事件にかかりっきりとかなんとか、その」
オーク「面倒事押し付けられましたねまた」
キマイラ「頼むぜボス。ただでさえ人手不足だってのに」
女吸血鬼の苦笑い
部屋にノックの音
ゴブリン(巡査)「部長殿。よろしいですか」
女吸血鬼「どうぞ。なにか御用ですか」
ゴブリン「盗難班のボスがお呼びです」
ゴブリンキング「というか来たよ」
オーク「旦那。お久しぶりです。仕事を奪いに来ましたか。ありがたい。資料を全部まとめますんで」
キマイラ「手伝おう」
ゴブリンキング「そんなわけないが、手伝いに来た」
ゴブリンキング「まず風紀班の方に聞いてみたがそういった身なりの売春婦は把握してないそうだ。ただサキュバスは高級娼婦に多い。そっちは把握しきれていないと」
オーク「さっき問い合わせたですがね。あそこのボス、俺らの事嫌いでしょう」
ゴブリンキング「何したんだ?」
キマイラ「うちのボスがケツを触られたってんで顔面にグー」
女吸血鬼「そういうあなただって犬と呼ばれてかみついたでしょう」
オーク「正直俺も好きじゃないんすけど、もっと正直に言えばみんな嫌いでしょう。顔面殴って問題にもならないって相当っすよ」
ゴブリンキング「わかるわ。でも仲良くやってくれよ」
ゴブリンキング「まぁ把握してない分もあり得るかもしれないが、その線は薄いんじゃないかと思う」
キマイラ「根拠は?」
ゴブリンキング「あるようでない。エメラルドを見せてもらえるかな」
女吸血鬼「はい。こちらです」
ポケットから小型の眼鏡を取り出しエメラルドを確認する
ゴブリンキング「本物だな」
女吸血鬼「はい。相当な物かと」
ゴブリンキング「いや、相当なんてものじゃない。貴族や大商人クラスの品物だ」
エメラルドを返すゴブリンキング
オーク「売春婦に渡す類のものではありませんね。そんなの」
ゴブリンキング「あぁ。売春婦の機嫌取るだけならこんなの要らんよ」
キマイラ「これでとりあえず売春婦ではないということは分かったな」
ゴブリンキング「あぁ。もう一つ助言として、被害者はスリじゃないかと思う」
オーク「スリ?」
ゴブリンキング「身なりの良い恰好、空の財布、複数枚の招待状、金持ち専門のスリの手口だ。パーティーに忍び込んで置き引きやスリをやるんだ。周りの人間の信用が高いと思って警戒が薄くなるだろ」
女吸血鬼「なるほど、つまりエメラルドは盗品じゃないかと」
ゴブリンキング「あぁ。その線で洗ってみたらどうかね」
オーク「だったら旦那がやってくださいよ」
ゴブリンキング「盗難と確定的にならない限り殺人班の仕事だ。殺人班は殺人解決したから後回しになって君らに回ってきたんだろうがね」
女吸血鬼「なるほど。うん。そうですね」
キマイラ「まずどうします?」
女吸血鬼「キマイラさんは被害者の人相書きを製作をしてください。オークさんは招待状のパーティーの主催を調べて。確認が取れ次第、主催者に被害者を知らないかまた盗難が発生してないか確認してみてください。そこから洗ってみましょう。運が良ければ被害者の身元が分かるかもしれない。あと盗難届について確認したいのですが、よろしいですか?」
ゴブリンキング「あぁ、持ってくるには多いからこっちに来てくれ。それもう一件お願いがあるんだが」
女吸血鬼「なんでございますか」
ゴブリンキング「巡査のゴブリンを一人専任で所属させてもらいたいんだが受けてくれないだろうか?」
ゴブリンキングの隣で直立不動で待機するゴブリン
女吸血鬼「人手不足ですから応援は有り難いのですが、またなぜ?」
ゴブリンキング「コイツは俺の妹の子でな。今度昇格試験を受けるんだがそれには実地勤務がいる。うちで受けようかと思ったが親族規定で駄目だといわれた、殺人班は他に数人受けてて対応できないといわれた。風紀班は、まぁ、そのな」
ゴブリン「風紀班のボスはゴブリンを毛嫌いしているであります。もっと言えばボスを嫌ってるであります」
オーク「正直なやつは好きだが、出世したけりゃ言い訳の仕方を覚えな」
オークは笑う
ゴブリンキング「まぁそういう訳でだ。君の所のキマイラが目をかけてくれてたみたいだし君のところで一つ預かってくれないか。人事ファイルはこれだ。成績は優秀だがほかの巡査と同じく逮捕経験が少ない」
ゴブリン「私が受け持っていた地域は治安が比較的良いのであります。問題あるのでありましょうか」
オーク「気にするこたぁねぇ。刑事になる前に経験積むために実務勤務をやるんだ」
キマイラ「そいつなら俺たちは喜んで受けるよ。ただ厳しくやるから覚悟はしろよ」
女吸血鬼「そういうことでしたら、まず試用期間ということでどうでしょうか?問題を起こせばすぐに追い出しますよ」
ゴブリン「よろしくお願いいたします」
ゴブリンキング「話は決まったようだな。いやありがたい。厳しくやってくれ。出世したら妹も喜ぶ」
そういって部屋から去っていくゴブリンキング
ゴブリン「あらためましてよろしくお願いいたします」
女吸血鬼「こちらこそよろしくお願いいたします。それでは、キマイラさんのもとについてください」
キマイラ「おう、じゃぁとりあえず似顔絵書きを探してモルグに連れて行ってくからついて来い。人間の先生は知ってるな?」
ゴブリン「了解致しましたであります」
部屋から出ていく二人。
巨体なので歩くといってもそれなりに早いキマイラとそれについて小走りでついていくゴブリン
女吸血鬼「ゴブリンで刑事職になりたいなんて珍しいですわね。ゴブリンキングなら結構いますけども」
オーク「ゴブリン達は名誉に興味がねぇから待遇に満足すれば下働きでも十分なんだ。残業手当もつくしな。逆にゴブリンキングは実益より名誉栄達だ権力ってのが大好きだから「キング」なんだってゴブリンがよく言ってますよ」
女吸血鬼「へぇ。私は前までゴブリンの代表がゴブリンキングなんだと思ってましたよ」
オーク「キングもゴブリンも種族的にはさほど変わらないんで普通に結婚してたりするらしいんすけどね。その辺本人の種族にしかわからんものがあるでしょう」
死体安置所
ゴブリン「先生」
人間「君か?どうしてここに」
キマイラ「昇格試験受けるってんでうちで預かることになったんだ」
人間「そうか、落ちてもいいから死なないように頑張るんだ。知り合いの検視をしたくはないからな」
ゴブリン「よろしくお願いします」
キマイラ「でだ。先生。人相書きを作りたい。いいかな」
後ろにたたずむ女性。黒い眼鏡をつけている。
メデューサ「石になったらこまる。いつも通りお願い」
人間「わかりました。検死も終わった所なので。ラミア君。君が代わりについていてくれるか。終わったらそのまま休憩していい。外でお話ししましょう」
安置所の外
薄暗い廊下
人間「まずこれが報告書です」
ゴブリンに渡されるファイル
ゴブリンはそれをキマイラがかけている鞄に入れる
人間「まず死因ですがこれは鈍器による外傷で間違いありません。もともと古傷があった所に一撃を受けたのが原因です。古傷は一か月以内でしょう。」
キマイラ「そっちはまぁいい。殺人班に同じのを渡しておいてくれ。身元の判明に役立ちそうなものは?」
人間「ないですね。指先に残留物はなし。歯にヤニが付いていたのでタバコはやるかと思います」
キマイラ「範囲が広すぎる。手先はどうだろうか?スリじゃないかという意見がでたんだが」
人間「スリ。スリねぇ」
人間「言われれば確かにスリの可能性もあるかもしれません。手が指先を使う仕事の特徴を示してる。針仕事か芸人かと思いましたがスリというのも可能性はあるでしょうね」
キマイラ「可能性か。死んだ人間の過去を追うのは仕事じゃないはずなんだがな」
人間「未来を追う仕事でもないでしょう。あと靴擦れを起こしてました」
ゴブリン「高い靴は履きなれてないということでしょうか」
人間「だろうね。スリかどうかは別として、普段はもっとおとなしい靴を履いてる身分だと思います。服もサイズが合ってないから、どこかから仕入れたのかお仕着せの類でしょう」
ゴブリン「なるほど」
人間「それ以上は今は言えません。また何かわかったらお知らせします」
キマイラ「頼むよ。人相書きができてるか確認してこい。できてたらかえって盗難届のファイルを確認する。でるとは思えんが、新人の特訓にはいいさ」
ゴブリン「了解しました」
貴族の館
オーク「こういう所はオーク族嫌われるんだよなぁ」
女吸血鬼「どこ行っても私達が喜ばれる場面などありませんよ。行きますよ」
応接間。
今まで回ってきた中では比較的質素
奥から出てきた主人が口を開く
ミノタウロス主人「今度は何です?」
オーク「今度、というのは何回かお世話に?」
ミノタウロス「田舎から出てくる同輩たちの身元引受人をやってるとね。喧嘩だの家出だの。俺も若い頃警邏連中の世話になった時に助けてもらった身だから恩返しだと思ってやってるが、いい加減にしてほしい」
オーク「お察しします。俺も似たような身分だった」
ミノタウロス「警邏風情が身元引受人になるのか?」
オーク「いえ、喧嘩して引受人に迷惑かける方で」
二人は笑う。
女吸血鬼「貴重なお時間を無駄にするのは失礼かと思いますので、簡潔にこの方をご存知ありませんか」
ミノタウロス「書類仕事より船をいじってたいくらいだからいんだが、えっと」
渡された人相書きを見る。
似顔絵と体格、髪の色や目の色が書かれている
ミノタウロス「あぁ彼女。捕まりましたか?だったら治療費はこちらで持つから請求書をと伝えてください」
オーク「ご存知ですか」
ミノタウロス「先日のパーティーに忍びこんだスリだ」
ホールに移動する三人
結構な大きさ
ミノタウロス「一か月しないくらいかな。ここで身内向けのパーティーをやった」
女吸血鬼「どのような理由ですか?」
ミノタウロス「あれは大口の取引が終わった祝いだったはずだが。正確なところが必要なら秘書に確認させよう」
女吸血鬼「よろしくお願いします」
壁につるされている呼び鈴を鳴らすミノタウロス
でてきたお手伝い
ミノタウロス「君、僕の秘書前回のスリ騒動の時の関係書類を一式用意して持ってくるように言ってくれるか。参加者のリストもあるだけ集めてくれ。必要だろ?」
頷く二人
ミノタウロス「集めてくれ。多分執務室にいるから」
お手伝い「わかりました」
ミノタウロス「嫁さんも俺も集まって騒ぐことに目がない人間でね。今じゃ集める側になったが。あの時はなにか大口の取引が追わったで関係者や従業員、その家族なんかを集めてパーティーをやった。料理を頼んだり子供向けの道化なんかも呼んで、まぁ福利厚生代わりにもなる」
オーク「うちも見習ってほしい。それで、招待状は出したわけですね」」
ミノタウロス「あぁ、一応な。そのリストも持ってくるはずだ。ただそこまで厳密な物じゃない。「ご家族様一同」位なものだ。それに近所の餓鬼共や従業員の知り合いなんかががもぐりこんででただ飯食うだけならとやかく言うつもりはない。だからそこまで明確なリストではないことは理解してほしい」
女吸血鬼「わかりました。それでこの女性は」
ミノタウロス「そうだな。あれはパーティーの中盤位だったはずだ。従業員がひそひそ話し始めてな」
ホールの右端に進む三人
ミノタウロス「さっき言ったように身内向けのパーティーだから貴族なんか近所の餓鬼や嫁さんや俺の知り合いってくらいで数えて数人くらいしかいない。まぁ従業員の嫁さんや彼女連中だって各々着飾ってはいるがそれだってたかが知れてる。そんな中でいかにも金持ちって感じの服装の女が参加してるってことで。話題になったとか」
端で立ち止まる三人
ミノタウロス「従業員達は、参加してた取引先の商人の嫁さんか娘か、もしくは近所の金持ちの娘が何を思ってか忍び込んだか、と思ったらしい。逆に話を聞いた金持ち連中は従業員の知り合いが旦那を探す為にて忍び込ませたんじゃないかって言ってた。どっちにしろ好んで触れようって相手じゃないのはわかるよな」
女吸血鬼「寄らば大樹の陰」
オーク「君子危うきには近寄らずでしょう。それで?」
ミノタウロス「そこで近所の貴族の餓鬼がブローチをなくしたと騒ぎだしてな。聞けば胸のブローチを剥ぎ取られた。顔は見えなかった。嫁さんが服を確認したら確かにそんな感じ。誰かが奪ったんだって話になった。そうなると真っ先に疑われるのは誰も見たことがないご婦人なわけだ」
オーク「囲ってリンチ?」
ミノタウロス「そこまで物騒じゃないが、気が荒い連中も多い。問い詰めてる時に手を出したやつがいてな。相手を押して、倒して、頭から出血。そこにあとがある」
指をさすミノタウロス
カーペットに残る赤い痕
女吸血鬼「暴行罪」
ミノタウロス「警邏は呼んだよ。それと同時にえらいことだととりあえずの手当して病院に担ぎ込んでな。打ちどころが悪くて頭蓋骨にヒビが入ったが死ぬほどではないってことでよかった。手を出したやつはおたくらの同僚に引き渡した。顧問弁護士が上手くやってくれたおかげで罰金刑だ。うちの会社からは罰則として当分一番きつい部署で働いてもらってる」
オーク「裁かれたなら俺たちが言うことじゃありませよ。部長。で女は」
ミノタウロス「治療の途中で逃げたよ。ブローチはその女の靴下の中に隠してあったと病院で聞いた。治療の時に先生が気付いたんだと」」
女吸血鬼「なるほど」
部屋に入ってくるミノタウロス
角が一本折れている
ミノタウロスB(秘書)「旦那様。書類をお持ちしました。とりあえず関係ありそうな物もセットで持ってきましたが」
大きな木箱いっぱいの書類
オーク「こんなにはいらない。参加者のリストとパーティーを行っていた時間、あと担ぎこまれた病院の連絡先、担当医の名前、あと一応突き飛ばしたって男の履歴書をもらえるかな。一応だよ。調べて関係ないってことがわかればいいんだ。いい気はしないだろうが、こっちも犬みたいに嗅ぎまわるのが仕事でね」
ミノタウロス「渡してやれ。でも履歴書は返してくれよ。こっちも法律で決まってんだ」
女吸血鬼「なら預かり証を書きましょう。お役所仕事がどういうものかご存知でしょうし」
ミノタウロス「助けてはくれるが動きはのろま」
翌日
詰所
キマイラ「エメラルドの盗難届は出されてなかった。他の会場でも何か所かでサキュバスが確認されてるが、盗難の被害はな」
女吸血鬼「なぜでしょう?」
オーク「予行演習じゃないか。パーティーに忍びこむだけなら罪は重くないから、まず招待状で問題なく忍び込めるか確認した」
キマイラ「可能性はあるが、なら狙いのパーティーは?まさかミノタウロス氏のパーティーじゃないだろう」
ゴブリン「盗まれたというブローチの方確認に行ってまいりました。病院の治療記録を先生に見せた所一致したとのことです。ブローチは盗難後本人に返却されております。御家族に話を伺った所、ミノタウロス氏の証言と一致する内容を得られました」
女吸血鬼「そのブローチの価値は?」
ゴブリン「現在修理中とのことで現物の確認はできませんでした。御家族の方曰く「安くはないが高級品とまでは」とのことでした」
女吸血鬼「貴族がそういう商品はまぁ結構なお値段するんでしょうね。とは言え、それを狙うってほどではない。やっぱりこのエメラルドが狙いだったのでしょう」
女吸血鬼「そうなるとこのエメラルドはやはりパーティー会場で盗難されたものと判断するのが妥当かと思われます」
キマイラ「まぁそうだろうな。拾ったなんてことはない。持っていた招待状を見るとほとんどはすでに開催されているから、ミノタウロス氏の事件はおまけだったとみるのが妥当だろう」
女吸血鬼「おまけ?」
オーク「こういう大物狙いの盗人は短期間に繰り返し盗難を行った後に逃亡するのが手口なんだよ。首都で盗品さばこうものなら直ぐに足がつく」
ゴブリン「先輩殿。一つ疑問があるのですがよろしいですか」
キマイラ「聞こうじゃないか」
ゴブリン「なぜ被害者は窃盗事件を起こした後に逃げなかったのでしょうか?エメラルドを持っていたのはわかりますが、ひと月も首都にとどまる理由がないかと思いますが」
オーク「確かに。特にミノタウロス邸にて騒動を起こしたんだから、さっさと逃げりゃいいよな。何も首都にいる必要はない」
人間「それについては僕から意見があります」
人間登場
女吸血鬼「先生。なにか御用ですか?」
人間「そこの新人君がファイルを忘れて行ってね」
ファイルを差し出す男
ゴブリン「これは申し訳ございません」
オーク「失点一だな」
笑うオーク
人間「医療記録を見せてもらった所、古傷のほうは初期治療のみを行い逃げだした。とある。でも被害者の傷をみる限りその後も治療を受けてるように見えます」
人間は報告書を女吸血鬼に渡す。
人間「医療会のほうでは把握してない。って事なので、闇医者か、それとも闇治療の類を受けていたのではないかと思います。それで首都の滞在期間が延びた」
女吸血鬼「なるほど。確かに表向きの医者に行ける立場ではありませんね」
人間「治療技術は悪くない、けれど正統派とは言えませんね。魔術の痕跡がある。外科治療と魔術の混合です。こういうのは治療期間が延びる」
オーク「闇医者は信頼にならねぇ。客の情報なんかすぐに売り飛ばす。もしかするとそっちの線もあるかもしれませんね」
キマイラ「それは殺人班の仕事だろう。でもそいつならエメラルドの事情もしってるかもな。探しますか?」
女吸血鬼「そうね。でもその前に別の線があると思うの。そっちから行きましょう」
取調室
ごろつきの一人が呼び出される
オーク「おいコラ!話はわかってんだ」
キマイラ「痛い目あいたいのか!!」
ごろつき「だから知らねよ」
オーク「いい加減にしねぇとそのあたまかち割るぞおら」
別の取調室
女吸血鬼「大丈夫かしら?」
ごろつき「・・・」
ゴブリン「どうでしょう。おっかない人たちですし」
女吸血鬼「そうねぇ。まぁ手は出さないと思うわ。繰り返し言いくるめてあるから」
ごろつき「でなんだ。何も話さねぇぞ」
女吸血鬼「あなたはすべて黙秘してる。罪をかぶる気?。まぁ今更なに言っても無駄でしょうけど」
ごろつき「分かってんじゃねぇか。なら何を聞きに来た」
女吸血鬼「まぁいいわ。あなたは最悪の場合仮釈放なしの無期懲役よ。しかしここで協力するのであれば多少緩くはできるかもしれない」
ごろつき「ふん」
女吸血鬼「話を続けるわ。あなたはなぜ彼女を狙ったの?それを吐きなさい」
ごろつき「ふん」
女吸血鬼「いい?向こうの彼が直接手を下したとは言えあなたは共犯、無期懲役は確定よ。ここで協力をしたらただの強盗致傷に切り替えてあげる。そしたらまだ出てこられる可能性はある」
ごろつき「そんなもんどうでも良い。俺は帰っても死ぬだけなんだ」
女吸血鬼「どういうことかしら?」
ごろつき「調べなよおねぇちゃん。それがあんたらの仕事だろよ」
横から口を開くゴブリン
ゴブリン「親分格に脅されているのか?」
ごろつき「あぁ?」
いかつい指で器用にファイルをめくる
ゴブリン「お前のマエを調べたが、縄張りは別だろ?なんであの日だけあそこにいた?誰かの指示じゃないか?」
ごろつき「ふん」
女吸血鬼「付かれたくないところのようね」
ゴブリン「お前が刑務所から出てくるころには親分も変わってるよ」
ごろつき「うんなことわかってるがよ。間違ってたらどうする。ムショにもダチはいっぱいいるんだ」
女吸血鬼は眉をひそめて一言
女吸血鬼「私が上に手心を加えた書類を出せば、まぁ警備が緩い刑務所に入れることはできるし、逆に厳しいところもできる。場合によっては首都とは遠く離れた別の刑務所に入れることもできるわ。周りにそのダチとかいうのがたくさんいて更生の妨げになるからとか言ってね。どうかしら?」
ごろつき「・・・・」
ゴブリン「時間がありません部長」
女吸血鬼「そうね。まぁ。あきらめるかしら。面倒でも仕事は頑張らないと」
ごろつき「まて」
後日
貴族の館
執事「旦那様、警察の方が」
サキュバス(貴族)「追い返せ」
オーク「そうは行かないんだな」
入ってくる警官一同
キマイラ「わかるか?お前を殺人教唆の疑いで逮捕する」
サキュバス「証拠は?」
キマイラ「証言が取れてる。殺人、窃盗、組織犯罪班のほうも動いてる。あきらめろ。せいぜいいい弁護士を呼べ」
立ち上がるサキュバス
身構える一同に対して両手を上げて降参の意
サキュバス「そうさせて貰うよ。あの女のせいでケチが付いた。俺の人生もこれで終わりだ」
オーク「まぁせいぜ良い弁護士を呼ぶんだな。おい」
ゴブリン「はい。あなたには黙秘権がある。あなたの供述は法廷で不利な・・・
その夜 詰所
女吸血鬼「あら、まだいたんですか?」
残っているキマイラとゴブリン
キマイラ「報告書書いてる。事務仕事は嫌いなんだ。新米とセットじゃ進まないしな」
ヤギとライオンの頭を持つ怪物が尻尾の蛇がペンを加え、器用に書類を書き上げる
ゴブリン「すいません」
キマイラ「いいよ。初事件にしては少々面倒だしな」
女吸血鬼「そうね」
女吸血鬼「そもそも被害者、ちがうわね。まぁサキュバス婦人は窃盗犯だったというのが始まりね。その確認は?」
ゴブリン「取れました。窃盗班と風紀班の方の報告書も添付してあります」
女吸血鬼「もと高級娼婦でパーティーに呼ばれることもあった彼女は、パーティーに参加して貴金属を盗む窃盗を行っていた」
キマイラ「もしかすると、俺らが回った招待状のパーティーでも窃盗沙汰があったのかもな。でも貴族のパーティーに娼婦を呼んだ挙句宝石を盗まれたなんて恥もいいところだ。警察に報告なんかしない」
女吸血鬼「かもしれませんね。でもいつの頃からか娼婦より盗人のほうが儲かることに気づいて、そっちが本業になった。で招待状の偽造でパーティーに忍び込みそこで窃盗を行う手口を編み出す。ここは必要なら追加検証が必要ね。まぁ当人が死んだ以上今更だけど」
ゴブリン「そこまでは良いんですが、実際に貴族の方のサキュバス氏とのつながりがどう報告したものか」
キマイラ「正直に書くしかない。偶然。もしくは資産がある一方で権力がなさそうな一代貴族や貴族号を買ったやつを狙ったと思われるが当人が死亡した以上判断はできない。云々」
ゴブリンは言われたとおりに書く
女吸血鬼「金と名誉はあるが権力がない。そういった人間なら狙いやすいと思ったんでしょう。その結果ライオンのしっぽを踏んだって事なんでしょうけどね」
そういってペンを持つ蛇の頭をなでる
キマイラ「やめてください」
女吸血鬼「あんまり気持ちいものではないわね。これ」
ためらいもなく女吸血鬼の手にかみつく蛇
吸血鬼の悲鳴
女吸血鬼「痛い」
ゴブリン「大丈夫ですか」
キマイラ「大丈夫。話を続けろ」
ゴブリン「えぇ、はい。夫人は同族の一代貴族サキュバス氏のパーティー会場を狙って、エメラルドを盗んだ。その後、何を思ってかミノタウロス氏のパーティー会場に忍び込み負傷。その後一か月間闇医者に通い治療を行う。そしてごろつきに襲撃され死亡」
キマイラ「要点は得てる」
ゴブリン「これだけじゃだめですかね」
女吸血鬼「ダメ、なんだよね。うん」
キマイラ「別の視点から言いましょう。一代貴族の方のサキュバス氏は表向きはよくある貴族、つまり「なんで稼いでるかよくわからないけど金払いはいい」という成金だった」
ゴブリン「どう書けばいいんですかそれ」
女吸血鬼「典型的な一代貴族でいいわ」
キマイラ「しかしそれは表向きの話。裏では地域のギャング組織の代表格をやっていた。そこで氏は警察に通報するのではなく自分で決着をつけることにした。それで地域の顔役連中に手配をかけ、サキュバス婦人を捜索。闇医者に引っかかたり所在がしれた所でごろつきを差し向けた」
女吸血鬼「殺す気はなかったんでしょう。ただ不運にも死んでしまった。これがもう一つの事実」
キマイラ「で、俺たちがごろつきを吐かせた結果、サキュバス氏の名前が出てきた。各班で捜査していたので合同捜査に早変わりで大捕り物と」
キマイラ「ま、どう考えてもまったくちがう事件だから並列して書くしかないんじゃないか?」
女吸血鬼「そうね。ほかの部署からも報告書がでてるはずだからそれでいいと思うわ。押し付けられた仕事が思いのほか大事になったわね」
ゴブリン「たしかにそう思うんですが、一つ問題があって」
女吸血鬼「何かしら?」
ゴブリン「私たちに課せられた任務はサキュバス婦人の身元確認とエメラルドの正当な所有者への返却ですよね。両方とも解決してない。どうします?」
顔を見合わせる二人
キマイラ「どうしましょう?」
女吸血鬼「身元確認は風紀班と盗難班の仕事、エメラルドは盗難班の仕事と書いておいて。こうなったらそれでいいの。私たちの仕事なんてそんなものよ」
そういって部屋からさる女吸血鬼
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