第5話
「これから先輩達を手本に頑張っていきたいと思います!新入生代表、新島弘人」
現在、食堂にて新入生の歓迎会を行っている最中である。
最初に定時制の生徒会長が挨拶をした。そのあとに新入生代表の新島と言う男性が先程の言葉を前に出て言った。
「…………」
にしてもだ。今日、初めて全学年で集まった訳なのだが……人数がとにかく少ない。全日制の生徒の半分にも満たない位の数しかいない。食堂席の席すら半分も埋まってないし。
「ねぇ、宮下?この後だよね。アレってさ」
アレってなんだよ、アレって?
と、思いつつも本当のところは話しかけてきた人物の言いたいことはわかっている。
「……部活紹介と、勧誘だろ。
凪白友奈、最近であった同じクラスの知り合いだ。何かと絡んできて、出会ってからまだ数日だがかなり馴れ馴れしい女だ。
「で…宮下は、部活入るの?」
「考えたことないな。」
正直言って入る気はない。春さんや薫さんに入れと言われたが、興味がわかないのだからしょうがない。
「なら!私と同じ部活に入りなよ!?」
「絶対嫌だよ、面倒くさい!」
即答で返すと凪白は驚いたような表情をした。
いや、何で断られないと思ったんだよ?普通考えたことないやつなら断られるだろ。
「何でさ!?良いじゃんかやることないなら。」
「やる事はないけど、やる必要もないだろ?」
だけど、と言おうとしていた凪白はあまりに大きい声で言おうとしたため途中で注意されていた。
あの後、事前の説明と部活動の部長または顧問の先生たちによるパフォーマンスで説明をされた。
それが終わったあとは、各自気になった部活動の説明と入部するためにそれぞれ別れて指定の場所に向かう。
でも、まぁ。こうなるんですけどね?
そして結局、凪白によって俺は部活動の説明を聞くため、なんの部活か分からないまま連行されている。
「お、ここだ!ここ!」
ついた場所は校舎から出て、少し離れたところにある部室棟の一番奥の端だ。
LEDの蛍光灯が照らしすが、端の為あまり光が届かないこの場所では確か……
「お、新入部員か?」
髭の生えた中年の男性が本を片手に椅子に座っていた。
中に入るとまず目につくのは……そう、ロードバイクと言われる種類の自転車である。
凪白に連れてこられた場所は自転車競技部である。
結局、春さんや薫さん達の思惑通り事が運んでいるような気がする。
「はい!機械電気科一年の凪白友奈です。」
「同じ一年の宮下です。」
『そうか』と言って持っていた本を閉じ、それを一つだけあるテーブルに置くと折りたたみ式の椅子を2つ出して俺たちの前においた。
「まぁ、座りなよ。簡単に部活の説明をするから。」
言われた通り椅子に腰掛けると二枚の用紙を渡された。
用紙には、入部届けとこれからの年間表が書かれていた。
「紙を見れば分かると思うけど、簡単にこれからの日程を説明するぞ。」
先ずと言って、教師は淡々と説明を始めた。
定時制の自転車競技部では、基本的に夏の全国大会に向けて練習をするらしい。県予選も開催されるのだが、定時制の生徒の数が少ないため毎年10人ほどしか予選に集まらないらしい。
全国大会に行けるメンバーは県予選の上位十人らしいので、殆どの確率で全国大会まで行くらしい。
「後、今年は県予選でのトラックの部がなくなるらしい。」
どうやら、自転車競技という中にはトラックの部とロードレースの部で分れているらしい。
まぁ、ド素人の俺にはよくわからないけどトラックの部は春さんの足を奪った競技であることは知っている。
「で、本題なんだけど?二人とも入部する気はあるのかな?」
男性教師は、首を傾げながらこちらを見てくる。
凪白は直ぐに『はい!』と答えたが、俺はあまり乗り気じゃない。
本来ならこの場に来ることもなかったし、正直言ってピンのこないのである。俺がロードバイクに乗っている姿が。
最近になってよく見かけるようになったロードバイクだが、見た目で言ってしまえばあまりカッコイイとは思わない。そもそも、あのなんと言えばいいのか表しづらい細いフレームに簡単に壊れてしまいそうな見た目、そして何よりあの値段の高さである。
安くても十万円を超えている。庶民の感覚では自転車にあんなにお金を掛けるのはおかしいんじゃないかと思う。
「……あまり、入部する気になれないです。」
やっぱり、やる気がないのだからやめようと思う。そういう人が一緒にやると周りにも迷惑がかかってしまうし、何より自分がその立場の人間になることが何よりめんどくさい。
「…………」
けれど、男性教師は黙ってしまった。何故だろうと声をかけようとした瞬間、隣にいた凪白が口を開いた。
「宮下も一緒に入部しようよ!お願いだから!」
服の袖を掴み、引っ張ったり押さたりと揺らしてくる。それをウザがりながらやめされるのだが、凪白は諦めず何度も同じように揺らし始める。
「何でだよ!?お前一人で入部すればいいだろ?」
そう言うと真顔で、凪白はこう言った。
「だって……私がつまらないじゃん?」
コイツ……と思いながら片方の手を握り。力が入ってしまった。
何とも、自分勝手で人のことなんて考えてないその態度に怒りさえ覚えた。
「お前な!」
「まぁまぁ」
男性教師は、二人の間に入って落ち着かせようとする。
「とにかくだ!宮下くん、入るも入らないも君次第だ。だけど、これを見てきてくれないか?」
そう言って男性教師はメモに住所と時間を書いて渡してきた。
何でこんなもの渡すんだ、と思いながら受け取ると最後に男性教師は面白いものが見れるぞと言って不敵に笑った。
「とりあえず、今日はこれで解散だ。明日、二人で見てくるといい、ロードレースを」
あの夏を僕は忘れない フクロウ @DSJk213
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。あの夏を僕は忘れないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
日常ラジオ/フクロウ
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 3話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます